交通事故でむち打ちになったのに嘘と言われる場合
交通事故で一番多いともいわれる怪我の1つに「むち打ち」があります。正式な診断名は「頚椎捻挫」と言います。
むち打ちは、事故の衝撃で首がおおきくしなることにより首周りの神経や筋肉を痛めてしまう怪我です。軽い事故でも起きやすい怪我で、他人から見て分かりにくい怪我なのですが、「本当にむち打ちですか?」と保険会社に疑われてしまうことがあります。
そこで今回は、交通事故でむち打ちになったのに保険会社に嘘と言われてしまう理由、その影響、嘘と言われないための正しい対応についてご説明します。
このコラムの目次
1.むち打ちを嘘と言われた場合の影響
軽い衝突事故であっても、首には大きな負担となるため、むち打ちを発症してしまう被害者の方も多くいらっしゃいます。
交通事故によりむち打ちになれば、人身事故として取り扱い、慰謝料や治療費、休業損害なども相手方に請求できるのですが、相手方の保険会社に「嘘だ」と判断されると、治療費や慰謝料が支払ってもらえない可能性があります。
また、治療費を受け取っていても、「嘘だ」と判断された段階で治療費が打ち切られてしまうのです。
治療を行うために治療費の支払いは必須であるため、経済的負担が大きくなってしまうという点で被害者への影響は甚大です。
2.「むち打ちは嘘」と言われるのはなぜ?
次に、交通事故でむち打ちになったのに、嘘だと言われてしまう原因についてご説明します。被害者側の事情、証明における事情、保険会社側の事情の3つに分けて見ていきましょう。
(1) 被害者側の事情
定期通院していない、関連する持病がある
軽い事故の場合、忙しさを優先し病院へきちんと通っていない方もいらっしゃるかもしれません。
仕事や家庭の事情でなかなか病院に通う時間がないというのはよくわかりますが、これを理由に「むち打ちではない」と判断されてしまうことがあるのです。具体的には、以下のような事情です。
- 事故直後から通院していない
- 治療が定期的ではない
- 通院回数が少ない
- 関連する持病があった
まず、交通事故被害に遭ったら、必ずすぐに病院でレントゲンやMRIといった必要な検査してもらうべきです。
むち打ちに関しては事故後すぐに痛みやしびれなどの明確な症状が現れず、2~3日経ってから痛みが出始めることがあります。
このとき我慢して病院に行くのが事故から1週間後になったという事情があれば、「本当に事故による怪我なの?事故以外の怪我ではないの?」と疑われてしまう原因となるのです。
また、治療経過も重要です。むち打ちの治療は、定期的に通院し医師の治療や観察が必要な怪我です。
しかし、定期的に通わず、月に1回など少ない通院回数である場合は「もう完治した」と考えられ、治療費が打ち切られてしまうケースがあるのです。
出来れば週1回、少なくとも週2回は定期的に通院すべきです。
そして、事故前から首や肩の不調を訴え、整形外科に通院していたケースも疑われる原因となってしまいます。「持病が悪化しただけでは?」という保険会社の意見があるかもしれません。
この場合は、事故前と事故後のレントゲンなどを比較することで、事故による怪我であることを証明できます。
(2) 証明における事情
自覚症状のみ、事故との因果関係が証明できない
むち打ちが嘘だと言われてしまう原因としては、証明における事情も考えられます。
交通事故で治療費や慰謝料を請求するためには、その怪我が当該事故によって被ったものであることを証明しなければいけません。
具体的には、以下のような事情で嘘と考えられてしまっている可能性があります。
- 症状を証明する客観的資料の欠如
- 事故との因果関係が証明できない
- 症状と事故状況に相違がある
むち打ちのなかでも、軽い症状の場合は自覚症状のみで痛みやその他の症状を証明する医学的証拠がないケースが多くあります。
むち打ちの検査では、レントゲンやMRIなどが用いられますが、このような画像所見からは異常が見られないことがあるのです。
この場合、被害者が主張する症状に合致する客観的証拠がないため、疑われてしまうことがあります。
また、先にご説明した関連する持病を事故前から持っている場合や、事故直後に病院へ行かず、事故と病院への通院に時間的空白がある場合は、事故との因果関係がないと判断されることがあります。
別の原因による怪我と判断されれば、治療費は支払われません。
そして、症状と事故状況に相違がある場合も「嘘だ」と決めつけられてしまう原因となることがあります。
例えば、事故の程度と怪我の重さの不一致や、被害者が主張する症状に一貫性がない(右肩が痛いと言っていたのに、左に変わるなど)こと、痛みが発症している部分と怪我した場所の不一致などが挙げられます。
(3) 保険会社側の事情
治療費を抑えたい、被害者や病院に対する不信感
被害者側の事情や証明に関する事情、これ以外に保険会社側の事情も関係します。具体的には、以下のような事情が考えられます。
- 治療費を抑えたい
- 通常の治療期間を超えている
- 病院や整骨院、被害者が嘘を言っている可能性
まず考えられるのが、治療費の抑制です。
保険会社からすると、できるだけ治療費に係るコストを抑えたいと考えています。むち打ちの場合は、3ヶ月程度で完治する方が多いため、この期間が過ぎると「治療費打ち切りの打診」をするケースです。
むち打ちの治療で一定期間が過ぎると、痛みがあると訴えても信じてもらえないことがあります。
また被害者の中には、治療が必要ないのにも関わらず少しでも多く慰謝料を受け取りたいがために、長期に通院する方もいらっしゃいます。
このような人を警戒して、軽い症状の場合は保険会社も疑ってかかるケースがあるのです。
3.むち打ちが嘘といわれないための正しい対応
最後に、交通事故でむち打ちが疑われないための正しい対応を理解しておきましょう。
(1) 事故直後は必ず病院へ行き、定期的に診察を受ける
まず、交通事故に遭ったら、できるだけその日、遅くとも翌日には病院へ行ってレントゲンやMRIといった必要な検査を受けてください。痛みがない場合でも同様です。
むち打ちの場合は、後日痛みなどの症状が出てくるケースも多いため、痛みだけが病院へいくべき理由とはならないのです。
自覚症状は無くても、首の神経や筋肉を損傷している可能性はありますので、事故と怪我との因果関係が否定されないためにも事故直後に病院へ行き、交通事故による受傷であることを伝え、レントゲンやMRIといった必要な検査を受けるのが正しい対応です。
また、病院へ通い始めたら、少なくとも週に1回、できれば週に2回ほどは通うようにしてください。病院で定期的に治療を受けていることで「治療が必要である」ことを保険会社に認識してもらえます。
医師の指示に従い、定期的な通院を心がけましょう。
[参考記事]
追突事故でむち打ちになった場合の対処法
(2) 医師に対して一貫した症状を伝える
医師に自覚症状をしっかり伝えないと、「もう完治した」と考えられる原因を作ってしまいます。痛みがあるなら、どのくらいの頻度でどの程度痛むのかなど正確に医師に伝えるようにしてください。
この点は被害者の方から積極的に医師に説明することが必要です。本当は痛みがあったのに、後になってカルテを見たときに何も記載がない「痛みはない」と判断されてしまいます。
レントゲンなどの画像所見で異常所見が確認できない場合には、特に被害者の一貫した症状の説明が重要となります。
症状の説明が曖昧である場合や、症状があちらこちらの身体の部位に移転する場合は、嘘と思われてしまう可能性があります。
普段から医師とのコミュニケーションはしっかりととり、治療を最後まで続けてください。
(3) 必要な検査をしっかりと行う
むち打ちでできる検査は、レントゲンやMRIなどの画像検査だけではありません。神経学検査というものも有効です。
神経学検査は痛みやしびれなどの神経の症状を確認するための検査です。レントゲンなどで異常が確認できない場合でも、神経学検査で異常が確認できるケースもあります。
具体的には、スパークリングやジャクソンテスト、腱反射テストなどがあり、必要に応じて神経学的検査を実施することも大切です。
画像所見で異常がない場合などは、医師に相談してみましょう。
(4) 症状固定や整骨院通院は医師に相談する
保険会社から「治療費を打ち切ります」といわれても、必ず従わないといけないわけではありません。
医師に「症状固定」と言われるまでは、健康保険に切り替えて治療を続ける必要があります。治療費打ち切りを打診されたら、医師に相談してみましょう。
このとき、きちんと症状がまだあることを説明することが大切です。医師による症状固定の診断が出ていないことを保険会社に説明すれば、これまで通り続けられるケースがあります。
[参考記事]
保険会社に治療費の打ち切りを通達されたら以降の通院はできないの?
(5) 整骨院に通いたい場合
また、整骨院に通いたい場合は、勝手に通院しないようにしましょう。
整骨院に通院する場合は、必ず主治医の許可が必要です。勝手に通院すると、整骨院に通った治療費は出ないことがよくあります。特に近時の傾向としては、裁判になった場合、整骨院の治療費が否定されるケースも散見されます。
主治医の許可が必要なことは勿論ですが、主治医の許可があったとしても、整形外科への通院をメインにして整骨院への通院は補助的という位置づけが必要です。
治療に関し何らかの変化がある場合は、必ず医師に相談することが必要です。
4.交通事故のむち打ちが嘘だと疑われたら弁護士に相談を
ご自身で疑われないための対策を行っても、保険会社から「治療費打ち切り」を通告されることはあります。
症状が続いているのにもかかわらず、突然の打ち切りが通告されたら、弁護士に相談しましょう。今後の対応策などを専門家と一緒に考える必要があります。
これ以外でも、保険会社との交渉や治療に関して困ったことがあれば、交通事故案件を多く取り扱う泉総合法律事務所が解決します。
まずは、お気軽にご相談ください。
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