交通事故で後遺症!後遺障害等級認定など損害賠償請求までの手続き
交通事故でケガをしてしまうと、しばしば、いつまでたっても痛みが残るなどの後遺症に悩まされ、日常生活に支障が出てしまいます。
交通事故の後遺症が「後遺障害」に該当すると認定されると、逸失利益や慰謝料などを保険会社に請求することができます。
このコラムは、交通事故による損害賠償請求までの手続の流れについて、特に後遺障害等級認定手続に焦点を当てて解説します。
このコラムの目次
1.交通事故のあとに出来る限り早くにすること
交通事故の損害賠償請求を保険会社にするには、交通事故のあと、「すぐ」に、警察や病院に記録を残してもらうことが、非常に重要になります。
後遺障害等級認定をするとなると、交通事故直後の行動の重要性はさらに増します。
(1)警察がする実況見分への立ち合い
通報を受け現場に到着した警察は、けが人がいる人身事故では、事故現場の状況を記録する「実況見分」を行います。必ず事故から時間が経たないうちに、実況見分に立ち会ってください。
実況見分により、警察は交通事故の状況を記録した「実況見分調書」を作成します。実況見分調書は、請求できる損害賠償金に影響を与える「過失割合」を判断するための重要な資料となります。
過失割合とは、交通事故が起きてしまった原因について、加害者と被害者の注意義務の違反の程度を割合で表したものです。
たとえば、加害者と被害者の過失割合が8:2であれば、最高でも損害の8割しか請求出来ないことになります。
実況見分の立ち合いでは、自分や加害者の運転状況や、また、事故当時の現場状況など、事故の内容を、警察に証言しましょう。
被害者のあなたが立ち会わなければ、最悪、加害者の一方的な言い訳だけが証言として残されてしまいます。
救急搬送されてしまった場合でも、後日、実況見分をしてもらえます。あとから痛みが出てきた場合でも、医師の診断書を警察に提出すれば同様です。
時間が経過すると記憶が不鮮明になりますし、また、そのように扱われてしまいます。出来る限り早くに立ち合いをしてください。
(2)病院受診と通院の継続
遅くとも、交通事故から1週間以内には、最初の受診をして、担当医から、「交通事故が原因でけがをした」と診断してもらうことが必要不可欠です。そうしなければ、保険会社は、けがが交通事故によるものであることを認めてくれなくなってしまいます。
また、事故後は、面倒でも、必ず1か月以内の間隔での通院を続けてください。
こちらも、1か月以上間隔をあけてしまうと、それ以降の治療は、交通事故とは無関係と言われかねません。
ほかにも、自分が加入している保険会社への連絡や、相手が加入している保険会社の確認もしておきましょう。
次に、後遺症が残ったとわかって以降の流れについて説明します。
2.「後遺症」と「症状固定」
「後遺症」とは、交通事故でけがをして以来、治療を続けていたものの、それ以上治療をしても、また、自然回復を待っても、交通事故以前の健康な状態への回復が見込めなくなってしまった状態のことです。
そして、後遺症が残ったと認められた時、つまり、元の状態へと回復がもはやできなくなった時を「症状固定」と言います。
症状が固定したと認定される時期は、以下の事情をもとに、個別具体的に判断されます。
- 担当医師の判断
- けがや症状の内容や程度
- 治療や投薬の内容や経過
- けがや症状の「一般的な」症状固定までの期間
- けがなどの原因となった交通事故の内容
症状固定により後遺症があると認められたら、その後遺症が、「後遺障害」に当たると認定してもらいましょう。
3.後遺障害等級認定
(1)後遺障害の認定を受ければ賠償金が増える
①後遺障害とは
「後遺障害」とは、後遺症の中でも、
- 交通事故が原因であることが医学的に証明されている
- 労働能力の低下あるいは喪失が認められる
- 労働能力の低下・喪失が、自動車損害賠償責任保険(「自賠責保険」とこれ以降は呼びます)の等級に該当する
ものを指します。
②後遺障害と認定されることにより請求できるようになる損害
後遺障害の認定を受けることが出来れば、
- 後遺障害による逸失利益
- 後遺障害の慰謝料
などの損害についての賠償金を、追加で請求できるようになります。
なお、「逸失利益」とは、後遺障害により減少してしまうと見込まれる将来の減収額です。
損害賠償金の金額は、慰謝料ならば後遺障害の等級、逸失利益では等級などに加え被害者の年収などの具体的事情に基づいて計算されます。
(2)後遺障害を認定してもらうための手続
後遺障害等級認定は、被害者が負った後遺症が「後遺障害」に当たるか・「後遺障害」に当たるとしても、どの等級に該当するのか、を認定する手続です。
後遺障害は、症状の内容や程度ごとに区分けした基準である後遺障害等級として認定されます。
後遺障害等級は、後遺障害の重さの順に、1級から14級まであり、後遺障害慰謝料の金額・労働能力喪失率(後遺障害により労働能力が失われた割合)が異なります。
労働能力喪失率は、逸失利益の計算に用いられます。そのため、どの等級に認定されるかで、大きく賠償額が変わることがあるのです。
(3)2つの申請方法
後遺障害等級の認定自体は、被害者や加害者側保険会社とは独立した第三者機関である、「損害保険料率算出機構」の「自賠責損害調査事務所」が行います。
もっとも、後遺障害等級認定の申請方法には、被害者請求と事前認定という2つの方法があり、被害者や保険会社の申請への影響が異なります。
- 事前認定・・・加害者が加入している任意保険会社が、相手方自賠責保険会社に請求するもの。
- 被害者請求・・・被害者が、相手方自賠責保険会社へ請求するもの。
4.後遺障害投入認定の申請方法
事前認定と被害者請求にはそれぞれメリットとデメリットがあり、具体的事情によりどちらが良いかは異なります。
(1)事前認定
①主なメリット:手間がかからない
後遺障害診断書を加害者側の任意保険会社に送付すれば、他の必要書類の収集や申請手続は、加害者側の任意保険会社がしてくれます。
②主なデメリット:思い通りの内容で申請をすることができない
被害者に有利な証拠を追加で集めることができませんし、下手をすれば、任意保険会社が被害者に不利な証拠を集めて、自らが負担する保険料を減らそうとする恐れもあります。
以上から、事前認定が向いている場合とは、
- 交通事故が原因によることが明らかな場合
- 軽傷で損害額が少なく増減しにくい場合
- 誰が判断しても結果が変わりにくい場合
といえます。
(2)被害者請求
①主なメリット:被害者の思い通りに申請をすることができる
被害者自ら、有利な証拠を積極的に集めて提出することができます。
②主なデメリット:手間がかかる
後遺障害診断書のみならず、その他の様々な必要書類を被害者自ら集めなければいけません。
また、どのような証拠が自分に有利かを判断する必要があります。
以上から、被害者請求が向いている場合とは、
- 交通事故が原因によることが明らかとはいえない場合
- 重症のため等級により損害額が大きく増減しやすい場合
- どの等級に当たるか、明らかとは言えない場合
- 証拠が確実なもの、十分なものとは断言できない場合
といえます。
被害者請求では、専門的な知識に基づいて、積極的に証拠を集め、資料を作成しなければなりません。弁護士に依頼すれば、専門的な助言を受けることで後遺障害を思い通りに認定してもらいやすくなるでしょう。
また、一定の証拠収集や資料作成も代わりにしてもらえますから、手間も減らせます。
なお、審査期間は 概ね、2ヶ月程度ですが、具体的なけがの内容や程度、書類の収集状況などが複雑で判断が難しい場合、より長期間審査が続くこともあります。
5.後遺障害認定の結果に不満がある場合の異議申立
後遺障害等級認定の申請をしても、必ず満足できる認定を受けられるとは限りません。後遺症が後遺障害に該当するとは認められない場合や、予想よりも軽い等級の後遺障害であると認定されてしまうことがあります。
認定審査の結果に不満がある場合には、損害保険料算出機構に対して異議申立をすることができます。上手くいけば、再審査がされることで、より良い後遺障害等級認定をしてもらえる場合があります。
後遺障害の認定では、後遺症の程度や内容・後遺症が交通事故によるものといえるか、が重要です。
具体的には、
- 提出された検査結果や検査画像からけがや症状があると認められるか
- 後遺障害診断書などに、けがや症状を裏付ける医学的な記載があるか
- その他、症状の経過や治療の状況など(同じような症状が、同じ部分に継続していて、治療も継続されているかなど)から、将来においても回復が困難と見込まれるか
と言ったところがポイントとなります。
異議申立の段階では、すでに一通りの証拠資料を提出していますから、未提出の新しい証拠を提出する必要があります。
特に、担当医による「医学的な所見」が重要です。
弁護士が審査結果を確認し、第三者機関が、被害者からすれば満足できない判断をした理由を確認し、担当医に「医療照会」(弁護士から医師への質問書と医師からの回答書がセットになったもの)をすることで、証拠が不十分であるとされていたポイントについて、説得力ある追加の証拠を手に入れることができる可能性があります。
適切に医療照会をするためには、法律知識のみならず、交通事故によるけがや症状に関わる医学知識も必要です。
異議申立を希望されていらっしゃる方は、交通事故対応の豊富な経験を持つ弁護士などの専門家に相談すべきでしょう。
なお、異議申立の他にも、「自賠責紛争処理機構に対する不服申立て」や、後遺障害認定そのものについて裁判を起こすという手段もありますが、あまり一般的ではありません。
6.保険会社への請求~示談や訴訟~
(1)示談交渉の流れ
相手方保険会社への請求は、まずは、裁判所を利用しない示談交渉から始まります。けがに関する治療費や慰謝料、通院にかかった交通費、仕事を休んだことによる休業損害、後遺障害についての逸失利益や慰謝料を計算します。
そして、算出された損害額を保険会社に請求するわけですが、残念ながら、実務上、請求した全額が支払われるとは限りません。
特に問題となるものが、交通事故直後の警察による実況見分で説明した「過失割合」です。
「被害者なのだから過失などない」と不愉快に思われるかもしれません。
もちろん、赤信号で停車中に追突されたケースなど、明らかに被害者に落ち度はないという場合には、過失相殺は問題となりません。
しかし、双方が運転中の事故などのほとんどの場合は、これまでの裁判所の判断からすれば、被害者の方も注意義務違反があると、法的に捉えられる状況になってしまうことが多いのです。
過失割合は、裁判所の無数の判断の積み重ねにより類型化がされています。
しかし、どの類型に当たるか、また、特別な事情により類型に基づく割合を修正すべきかどうかと言った点で、争いが生じやすくなっています。
また、精神的な苦痛に対する損害賠償金である慰謝料についても、保険会社は、示談の段階では、裁判ならば認められる金額を支払ってくれないことがよくあります。
(2)裁判の流れ
保険会社がこちらの要求に応じてくれないようならば、裁判をすることになります。裁判では、保険会社とそれまで示談交渉をしていたとしても、加害者本人を被告にします。
裁判では、ほとんどの場合、判決の前に、裁判官から和解案が提示されます。
双方が和解案について合意すれば、和解が成立します。
和解が不成立に終われば、判決をしてもらいます。
7.交通事故の後遺障害は弁護士に相談を
交通事故による後遺症は、長きにわたり被害にあったあなたを苦しめる恐れがあります。
交通事故のときには痛みがなくても、数日たってから症状が出始めることもありますから、油断せずに、迅速に警察や病院に通ってください。
事故直後の動きは、後遺障害等級認定にも大きな影響を与えます。
後遺障害等級認定では、必ずしも、満足のいく認定をもらえるとは限りません。
出来る限り早くから専門家に相談し、賠償請求の見通しや行動すべきこと、必要な資料について適切な助言を受けることが重要なのです。
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