交通事故の高次脳機能障害の症状|後遺障害認定なら弁護士へ
ご家族が交通事故に遭い意識を失ってしまったものの、後日、幸いにも意識を取り戻してくれたとします。
しかし、そのご家族が「事故前よりも物覚えが悪い」「仕事も家事も要領が悪い」「短気で身勝手になり、まるで別人のようだ」と感じる方はいらっしゃいませんか?
それは、「高次脳機能障害」という症状の可能性があります。
今回は、高次脳機能障害や後遺障害等級認定について、分かりやすく説明します。
このコラムの目次
1.高次脳機能障害とは
交通事故で脳に物理的な損傷が生じてしまうと、高次脳機能に障害が起きてしまうことがあります。
高次脳機能障害とは、人が人らしい生活を社会の中で営む能力「高次脳機能」に問題が起きる障害です。
高次脳機能は、大きく分けて「認知機能」「行動機能」「情動機能」の3つがあります。
認知機能や行動機能、情動機能と言った高次脳機能が、「人間らしさ」を作りだしているのです。
しかし、何らかの原因で高次脳機能に問題が起きると、寝る・食べるなど最低限「生きる」ことはできても、「社会の中で一人の自立した人間として生きる」ことが難しくなってしまいます。
具体的な障害の内容としては、以下の三つがあげられます。
- 認知障害:物覚えが悪く、集中力が無くなって、要領が悪くなった など
- 行動障害:衝動的な行動が多く、自己中心的になった など
- 人格変化:無気力な感じになり、怒りっぽくなった など
高次脳機能は、社会の中で生きていくために必須の能力です。高次脳機能障害となってしまうと、仕事や家庭生活、人間関係に大きな悪影響を及ぼしてしまいます。
外見上は障害があるとはわかりませんから、周囲の理解を得にくいなどの問題も山積みです。
寝たきりや認知症レベルの重症でなくとも、被害者の方の損害はとても大きくなるのです。
2.高次脳機能障害の損害賠償金の相場
交通事故によるケガで後遺症が残ったときは、治療中の医療費などとは別に、後遺症についての損害賠償金を追加で受け取れる可能性があります。
ただし、後遺症が「後遺障害」と認定されなければ、原則として、その後遺症について損害賠償請求することはできません。
(1) 後遺症の損害賠償請求
後遺障害とは、後遺症の中でも損害賠償が認められるものを指す、法律的な概念です。収入を得る能力である「労働能力」への悪影響の大きさにより、14の「等級」に分けられています。
後遺障害の損害賠償金には、主に以下のものがあります。
- 後遺障害慰謝料:後遺障害が残ってしまったことによる精神的苦痛への損害賠償金
- 逸失利益:後遺障害の悪影響で将来手に入れられなくなったお金を埋め合わせる損害賠償金
高次脳機能障害が後遺症として残った場合には、適切な損害賠償請求をするためには、後遺障害等級認定手続で後遺障害の等級に当たると認定を受ける必要があるのです。
(2) 後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料については、後遺障害の認定を受けると、自賠責保険から等級に応じた金額が支払われます。
任意保険との示談交渉を弁護士に任せた場合は、これまでの裁判所の判断をまとめた弁護士基準(裁判基準)が相場の目安となり、後遺障害慰謝料が増える可能性があります。
あくまで目安ですから、実際の金額の見通しは、弁護士に相談をすることが必要です。
|
自賠責基準 |
弁護士基準 |
認定される症状の内容の目安 |
1級 |
1600万円 |
2800万円 |
体は自由に動かせるものの、食事やトイレにいつも介護が必要 |
---|---|---|---|
2級 |
1163万円 |
2370万円 |
食事などに家族の声掛けなどサポートが必要。1人で外出することが困難なほど、非常に判断力が低くなってしまっている |
3級 |
829万円 |
1990万円 |
自宅周辺なら1人で外出でき、声掛けなどが無くても食事などができる。しかし、普通に働くことが全く出来ないか、困難 |
5級 |
599万円 |
1400万円 |
単純繰り返し作業など簡単な仕事はできる。しかし、記憶力不足や周囲への適応能力不足のため、働き続けるには職場の理解と援助が不可欠 |
7級 |
409万円 |
1000万円 |
普通の仕事はできるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなど、作業効率は一般より低い |
9級 |
245万円 |
690万円 |
普通の仕事はできるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題がある |
(3) 逸失利益
逸失利益の金額も、認定された等級の影響を受けます。
逸失利益は、大雑把には「将来見込まれる年収×労働能力が失われた度合い×将来働けると見込まれる年数」を調整して算出します。
このうち、労働能力が失われた度合い、「労働能力喪失率」は、等級に応じて目安が決まっています。
|
労働能力喪失率の目安 |
1級 |
100% |
---|---|
2級 |
|
3級 |
|
5級 |
79% |
7級 |
56% |
9級 |
35% |
自賠責基準と弁護士基準で労働能力喪失率に差はありません。
しかし、自賠責保険からは、逸失利益のすべてを支払ってもらえないおそれがあります。支払われる損害賠償金には総額上限があり、後遺障害慰謝料の支払いが優先されるためです。
残りを支払わなければならない任意保険会社は、できる限り逸失利益を支払わないよう主張してきます。
逸失利益の適切な賠償を受けるためには、弁護士に交渉を任せたほうが良いでしょう。
3.認定手続・認定条件
高次脳機能障害は症状が分かりにくいため、特別な認定手続が用いられています。
原則として、重要な診断書などから「交通事故により脳が損傷して高次脳機能障害の症状が出ている」ことが認められなければ、そもそも高次脳機能障害として後遺障害等級認定を受けることができないのです。
事故直後の検査や診断、認定手続専用の特別な診断書である「後遺障害診断書」の内容について、弁護士の助言を受けつつ丁寧な証拠作りが必要になります。
(1) 審査条件
高次脳機能障害として後遺障害等級認定の審査を受けるための条件は、2020年現在、以下のとおりです。
<必ず審査を受けられる>
- 後遺障害診断書に、高次脳機能障害や脳の損傷が診断名として記載されている
<審査を受けられる可能性がある>
- 「初診時に頭をケガしていると診断されている」かつ「治療中に医師が定期的に作成していた経過診断書に高次脳機能障害や脳の損傷の診断がされている」
- 「初診時に頭をケガしていると診断されている」かつ「高次脳機能障害の症状や、マヒなど高次脳機能障害の患者が同時に発症することが多い症状が記載されている」
- 経過診断書で、初診時に画像検査で頭蓋骨内部に異常があったと記載されていた
- 「初診時に頭をケガしていると診断されている」かつ「初診の病院が作成した経過診断書に、重い意識障害が少なくとも6時間以上続いていると記載されていた」
- 「初診時に頭をケガしていると診断されている」かつ「軽い意識障害か記憶障害が少なくとも1週間以上続いていた」
- その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる
(2) 認定条件
後遺障害の一般的な認定条件は以下となっています。
- 後遺症が残っていると医学的に証明されていること
- 交通事故のケガにより後遺症が生じたと証明されていること
- 後遺症による労働能力の低下が後遺障害の等級に定められたレベルに達していること
個別の後遺障害の認定条件の詳細は公開されていませんが、これまでの認定結果からの推測では、高次脳機能障害では、以下のことが具体的な認定条件となっているだろうとされています。
- 後遺症があることの証明と労働能力の低下は、診断書や知能検査などで高次脳機能障害の症状の有無や程度が証明できること
- 因果関係については、初診時に検査や診断書で頭をケガしていた記録があること・頭をケガしたせいで脳の神経がキズついたと証明できる事情があること
4.認定のポイント
高次脳機能障害の認定のポイントは以下の通りです
(1) 精密画像検査を直後から定期的に実施する
MRI検査の中でも特に精度の高いものをできる限り早くから定期的に行ってください。
「部分的な脳の損傷」である脳挫傷は、事故直後に画像検査をすれば判明しやすいものです。しかし、何か月も経ってから検査をしては、治療で回復してわからなくなってしまう可能性があります。
また、異常のある画像検査結果は、脳損傷が起きたことを証明する信頼性の高い証拠になります。
しかし、精度の低い画像検査を認定申請直前に1回するだけでは、脳損傷が分かる画像が撮影できる可能性はとても低いでしょう。
MRI検査は、負担が大きく、専門病院・大病院での検査が必要となりますが、ほぼ必須です。医師にしっかりとお願いしておきましょう。
(2) 様々な知能検査をする
高次脳機能といってもその内容は様々ですので、それぞれの機能に応じて異なる検査が必要になります。
症状に応じた必要な検査は何か、医師によく確認しましょう。
画像検査のように物理的な証拠というわけではありませんが、信頼性が高い証拠になります。
(3) 後遺障害診断書の内容を確認する
後遺障害診断書は、審査条件でも認定自体でも、認定される等級にも大きな影響を与える、非常に重要な資料です。
記載内容のニュアンスの微妙なズレすら、手続に悪影響を与えるおそれがあります。
高次脳機能障害では、医師は「もともとこういう性格の人なんだろう」と思ってしまいがちです。
治療やリハビリ中に医師に事故前とどう変わったのかを具体的にはっきり伝えることはもちろん、その内容が後遺障害診断書に反映されているか、診断書を受け取ったときによく確認しましょう。
5.まとめ
高次脳機能障害は、被害者の方はもちろんご家族など周囲の方にも大きな問題が生じる可能性がある後遺障害です。
後遺障害等級認定を受けることで適切な損害賠償金を受け取りたいところですが、手続きの中で特別な扱いを受けているように、その診断や認定は困難を伴います。
もし、被害者様が事故直後に意識を長時間失い、意識回復後の様子がおかしいようでしたら、できる限り早くから検査や被害者の方の様子の記録など、認定のための資料作りを進めておきましょう。
具体的な事情の下で何に注意すればよいのかをつかむためには、できる限り早くに弁護士に相談するべきです。
泉総合法律事務所は、これまで多数の交通事故の被害者の方をお手伝いしてまいりました。
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高次脳機能障害に苦しむ皆様のご来訪をお待ちしております。
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