債務者も知っておくべき知識|個人再生委員とは?
個人再生の申立てをすると、裁判所から「個人再生委員」という人が選任され、個人再生手続に大きく関わってくる場合があります。
では、個人再生委員とはどのような場合に選任され、具体的にどのような仕事をするのでしょうか。
今回は、個人再生委員について詳しく解説していきたいと思います。
このコラムの目次
1.個人再生委員とは
(1) 個人再生委員ってどんな人?
個人再生委員とは、個人再生手続において裁判所を補助し、手続の指導・監督を行う役割を担う人です。
個人再生の手続は、破産手続よりも煩雑で、申立てをしたら後は裁判所の指示を待っていればよいというものではなく、再生計画案の作成・提出など再生債務者が主体的に進めていかなければなりません。
そのため、適正・公正な手続を担保し、手続をより円滑に進めていくために、中立な立場である個人再生委員が選任され、手続の指導・監督を行っていくのです。
(2) 個人再生委員の選任
個人再生委員を選任するかどうかは申立てをした裁判所の判断によります(民事再生法223条1項本文)。
つまり、個人再生の申し立てをすると必ず選任されるというわけではなく、裁判所の判断で個々の事件に応じて、個人再生委員を選任したり、しなかったりするということです。
ただ、東京地方裁判所の場合は、原則として個人再生の申立てのあった全件につき個人再生委員を選任する運用をしています。
東京地方裁判所は、他の裁判所に比べて申立件数が非常に多いため、膨大な数の個人再生手続を適正かつスムーズに進めていくために、このような運用をしているのです。
ですから、東京地方裁判所に個人再生の申立てをする場合(申立人の住所地が東京都の場合)には、必ず個人再生委員が選任されると考えておきましょう。
東京地方裁判所以外の裁判所の場合は、申立代理人として弁護士がついている場合には原則として個人再生委員を選任せず(たとえば調査が必要な資産が多数あるといった複雑な事案など、事案の内容によっては選任されるケースもあります。)、申立代理人として弁護士がついていない場合(本人申立ての場合)には選任するという運用をしているところが多いようです。
本人申立てで司法書士に依頼している場合(司法書士に申立書類を作成してもらって本人で申し立てるという場合)は、個人再生委員が選任される場合とされない場合があり、そのあたりは申立てをする裁判所の運用によって異なります。
なお、再生手続の開始当初は個人再生委委員が選任されなかったものの、途中から個人再生委員が選任されるというケースもあります。
民事再生法では、債権者から債権の評価申立てがなされた場合には、その申立てを不適法として却下する場合以外は必ず個人再生委員を選任しなければならないと規定しています(民事再生法223条1項ただし書)。
(3) 個人再生委員に選ばれるのはどんな人?
個人再生委員に選任されるのは、通常、申立てをした裁判所の管轄内にある弁護士会に所属する弁護士です。
東京地方裁判所の場合は、管轄内の弁護士の人数も多いので、個人再生の申立て件数や破産管財人等の経験が豊富であり、弁護士登録から10年以上経っているベテラン弁護士を個人再生委員に選任する運用をしています。
2.個人再生委員の仕事
では、個人再生委員の職務とはどのようなものでしょうか。
民事再生法では、裁判所は、個人再生委員を選任するにあたって、個人再生委員の職務として、
- 再生債務者の財産及び収入の状況を調査すること、
- 再生債権の評価に関し裁判所を補助すること、
- 再生債務者が適正な再生計画案を作成するために必要な勧告をすること
の3つの事項のうちから、1つまたは2つ以上を指定するとしています(民事再生法223条2項)。
以下で、具体的にどのような仕事を行うのかみていきましょう。
(1) 再生債務者の財産・収入状況等の調査
個人再生委員は、申立時に再生債務者が提出した資料や再生債務者との面談の際に聴取した事項をもとに、再生債務者の財産や収入状況等を調査します。
そして、個人再生手続の開始要件を満たしているかどうかをチェックし、裁判所に意見書を提出します。
それを受けて裁判所は、個人再生委員から提出された意見書を参考に、個人再生手続の開始決定をするかどうかを判断することになります。
開始決定の判断をするのは裁判所ですが、余程のことがなければ個人再生委員の意見がそのまま裁判所の判断に反映されます。
ここで躓いては個人再生手続が始められなくなってしまいますから、個人再生委員に開始相当との意見書を提出してもらえるかどうかは非常に重要です。
また、再生債務者が提出した財産目録に記載すべき財産を記載していなかったり、不正の記載をしていたりした場合には、個人再生委員から裁判所に対し個人再生手続の廃止が申し立てられることがあります。
当然のことですが、債務や財産は正直に申告しなければなりません。
(2) 再生債務者との面接
再生債務者と面接を行うのも個人再生委員の仕事の1つです。
東京地方裁判所の場合、個人再生の申立てをした当日に個人再生委員が選任され、個人再生委員は3週間以内に裁判所に対し個人再生手続の開始に関する意見書を提出する必要があります。
そのため、通常、申立てから1~2週間の間に再生債務者と面接をして、財産状況や借金の経緯、今後の収入などを聞き取り、再生債務者が開始決定の要件を満たしているかどうかをチェックすることになります。
(3) 再生債権の調査
個人再生の手続においては、債権者と再生債務者の双方が主張する債権額についての主張が食い違うことがあります。
たとえば、過払い金の有無について争いがあるケースなどです。双方がともに譲らず、互いの主張する金額に異議を申し立てた場合、債権者から債権の評価申立てがなされます。
債権の評価申立ては、裁判所に債権額を調査して確定してもらう手続です。そして、実際に債権の調査を行うのが裁判所から選任された個人再生委員です。
裁判所は、個人再生委員の意見を聞いて、債権額を確定させます。
(4) 履行テストの実施
東京地方裁判所をはじめ多くの裁判所では、再生計画案の認可前に「履行テスト(積み立てトレーニングとも言います。)」が行われます。
履行テストとは、かりに再生計画が認可された場合に毎月弁済していくことになる金額と同じ金額を債務者に一定の期間積み立てさせるというもので、再生計画どおりの弁済が可能かどうかを裁判所が見極めるために実施されます。
この履行テストを行うのも個人再生委員の仕事です。
履行テストの流れは各裁判所によって違いがありますが、たとえば東京地方裁判所の場合は、個人再生の申立てをすると個人再生委員から振込先口座についての連絡があるので、申立てから1週間以内に指定された口座に1回目の振込みをすることになります。
そして、原則として6か月間、毎月決まった金額を積み立てていくことになります。
なお、履行テストで計画どおりの積み立てができないと、継続して弁済していくことが可能という要件を満たさないとして再生計画が不認可となってしまう可能性が高いので、注意が必要です。
[参考記事]
個人再生の履行テストとは?
(5) 再生計画案作成に関する再生債務者への勧告
個人再生委員は再生債務者が作成した再生計画案の内容をチェックし、適正な再生計画案が作成されるよう勧告を行います。最低弁済額の要件を満たしているかどうか、履行可能性に問題はなさそうか等を確認し、裁判所に意見書を提出します。
この意見書を踏まえて、裁判所は、再生計画案を債権者の書面による決議に付する決定(小規模個人再生の場合)あるいは意見聴取決定(給与所得者再生の場合)を行います。
そして、これらの決議や意見聴取を経て、裁判所は再生計画案の認可・不認可を決定します。
再生計画案の認可・不認可を決定するのは裁判所ですが、個人再生委員の意見が裁判所の判断に大きく影響を与えるので、個人再生委員は非常に重要な役割を果たします。
3.個人再生委員の報酬
上でご説明したとおり、個人再生委員は様々な業務を行いますが、仕事として行うわけですから当然費用(報酬)が発生します。では、その報酬は誰が負担し、どれくらいの金額になるのでしょうか。
まず、個人再生委員の報酬を負担するのは、再生債務者です。
報酬の金額については裁判所によって異なりますが、東京地方裁判所の場合は、申立代理人として弁護士がついている場合には15万円、弁護士がついていない場合(本人申立ての場合)には25万円となっています。
その他の裁判所の場合は、20万円前後のところが多いようです。
報酬の支払い方法ですが、東京地裁の場合は、履行テストで積み立てたお金が「分割予納金」となり、そこから個人再生委員の報酬が支払われます。
具体的には、申立代理人弁護士がついているケースでは個人再生の報酬は15万円ですので、積み立てた分割予納金のうち15万円が個人再生委員の報酬となり、差額があればそれは申立人(申立代理人弁護士)に返金されるということになります。
4.個人再生は弁護士に相談を
今回は、個人再生委員について解説いたしました。個人再生手続において、個人再生委員が重要な役割を果たしていることがお分かりいただけたかと思います。
泉総合法律事務所では、個人再生をはじめ多数の債務整理のご相談をお受けしてきた実績がございます。
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