交通事故

歩行者対自動車の交通事故で重要となる過失割合の基礎知識

歩行者対自動車の交通事故で重要となる過失割合の基礎知識

子どもがボールを追いかけ道路に飛び出して直進してきた車に衝突した。
見通しの悪い交差点で歩行者と車が衝突した。

このような交通事故を身近で聞いたり、体験したりしたことがある人は多いと思います。

誰もが遭遇する可能性があるといえる歩行者と車の交通事故ですが、被害者が交通事故で受けた被害を、損害賠償という形で加害者が償うためには、歩行者と車の運転者のどちらがどれだけ悪いのか(過失があるのか)を明確にしなければなりません。

しかし、この過失については、当事者間で主張が対立しやすい部分なので、争いが生じることも多いものです。

ここでは、歩行者と車の交通事故において、歩行者が知っておきたい過失割合の考え方を中心に説明します。

1.過失割合とは何か?

そもそも、交通事故における過失割合とは何なのでしょうか

(1) 過失割合とは

歩行者と車の事故では、車の運転者側に過失がある場合ばかりではありません。歩行者にも、左右確認をしないで道路を横断しようとしたなどの過失があることも多いものです。

このような場合に、事故の当事者である歩行者と車の運転者のどちらがどれだけ悪いのかが問題になります。この過失の割合が「過失割合」です。

過失割合が決まると、加害者は、被害者に対して損害賠償額全体から被害者の過失分に相当する金額を引いて示談金として支払うことになります。

例えば、交通事故の損害賠償額全体が1,000万円であったときに、過失割合が歩行者:車の運転者=10:90に決まれば、加害者は、被害者の過失分の100万円(1,000万円×10/100)を引いた900万円を被害者に支払うことになります。

このように、過失割合は、受け取る示談金の額を大きく左右します。

(2) 過失割合の決まり方

示談の段階では、過失割合は当事者間の同意で決まります。

通常、過失割合は、損害賠償の話し合い(示談)の相手である、車の運転者が加入する保険会社の示談担当者が提示します。

しかし、一般的に保険会社が提示する過失割合のほとんどは、歩行者の過失を厳しく追及し、保険会社側が有利になるものです。

なお、示談の段階では過失割合が決まらないときには、調停や裁判で決めることになります。

(3) 過失割合は変えられないか

加害者側の保険会社が提示する過失割合に納得できないときには、過失割合を変えることができる可能性も十分にあります。

過失割合の基準は一つではありません。保険会社が定めている過失割合の基準とは別に、これまでの裁判例をもとにして事故類型別に分けて過失割合を示す基準表もあります。

この基準で算出した過失割合は、保険会社が提示する過失割合よりも歩行者に有利になることも多いものです。

そして、基準表に基づいた過失割合は、裁判になったときでも認められる可能性が高いものです。従ってそれは、保険会社と過失割合を変える交渉をする強力な材料となります。

(4) 過失割合の算出方法

裁判例をもとにした過失割合の基準表は、公益財団法人日弁連交通事故相談センターが作成している「交通事故損害額算定基準」などに掲載されています。

この基準から過失割合を算出する方法としては、まず個別の事故のケースに当てはまる類型で、基本的な過失割合を読み取ります。そして、その基本的過失割合に、修正要素となるものがあれば、加算または減算して算出する方法によります。

具体的な算出方法は、以下の具体例の中でみていきます。

2.歩行者の過失割合はどう考える?

(1) 歩行者の過失割合の基本的な考え方

交通事故の過失割合の基本的な考え方は、どちらがどれだけ法に違反しているか、どちらが交通に関して優位的な立場であるかなどの要素と関係します。

歩行者と車との事故については、交通に関して優位な立場である車が、その危険を負担するという基本的な考え方があります。

しかし、歩行者に過失があるときには、その過失が考慮され、歩行者と車の過失割合が算定されることになります。

また、事故が発生した場所や状況によって、歩行者や車にとって要求される行動が異なり、過失と判断できるかどうかも変わります。

ですから、事故の発生場所などに応じて定められた基本的な過失割合に、状況などに応じて定められた修正要素の割合を加算または減算して、最終的な過失割合が算出できることになります。

(2) 具体例1:信号機のある横断歩道での事故

以下では、公益財団法人日弁連交通事故相談センターが作成している「交通事故損害額算定基準18訂版」に掲載されている基準で、具体的な過失割合をみていきましょう。

歩行者が信号機のある横断歩道を横断中に車に衝突された場合には、歩行者の基本的過失割合は、0%から70%までの間になります。

具体的には、歩行者が青や黄色の信号で横断していたときには、歩行者の基本的過失割合は0%~30%と低いものになりますが、歩行者が赤の信号で横断していたときには、歩行者の過失割合は20%~70%になります。

例えば、歩行者が黄色の信号で横断歩道の横断を開始したときに、車も黄色の信号で交差点に進入して右折し、歩行者と車が衝突したとします。この場合の基本的な過失割合は、歩行者:車の運転者=20:80となっています。

そして、事故発生状況等に夜間であった、高齢者や児童であった、などといった修正要素があれば、この基本的な過失割合に修正要素の割合を加算や減算して、最終的な過失割合を算出することができます。

(3) 具体例2:横断歩道以外を横断中の事故

歩行者が横断歩道以外の場所を横断していたときに、車に衝突された場合には、歩行者の過失割合は10%~20%になります。

具体的には、歩行者が横断したのが幹線道路等であったときには20%、幹線道路でない道路等であったときには10%、通常の道路であったときには20%が歩行者の過失割合となります。

例えば、幹線道路ではない道路において、信号機や横断歩道のない交差点を歩行者が横断していたときに、車が歩行者に衝突したとします。

この場合、歩行者:車の運転者の基本的な過失割合は、10:90となっています。

そして、この基本的な過失割合に修正要素があればそれを加算または減算して、最終的な過失割合を算出できることは、具体例1と同様です。

(*参考文献 薄金孝太郎『交通事故の損害賠償と解決―知りたいことがすぐわかる!―』新星出版社、1996年。改訂第4版は2017年)

3.過失割合に悩んだ場合の解決策

歩行者が、保険会社が提示した過失割合に納得出来ない場合、裁判例をもとにした基準で過失割合を算出して、保険会社と交渉することは不可能ではありません。しかし、交渉が難航することが予想されます。

その理由は二つあります。第一に、保険会社の示談担当者は交通事故の示談の経験や知識に長けていることです。第二に、保険会社には顧問弁護士がいてアドバイスを受けている可能性もあることです。

その結果、法律の専門家ではない歩行者の言い分は、通り難くなるのです。

では、過失割合の交渉が難航したり、そもそもご自身のケースの過失割合を算出することが難しいと感じたりしたときには、どうすれば良いのでしょうか。

その答えは、「こちらも法律の専門家である弁護士を探して相談する」に尽きます。

弁護士は、そのケースに応じた適切な過失割合を算出して、裁判例などの材料をもって交渉します。それは裁判も見据えた交渉になるので、多くの場合、保険会社も歩み寄って来ます。

弁護士に相談すれば、保険会社が提示してきた過失割合よりも有利な過失割合で示談を早期に成立させる可能性が高まります。そうすると大幅な示談金アップにつながる可能性もあります。

また、弁護士に相談すれば、弁護士が保険会社と交渉します。そうすると、保険会社と直接交渉をする必要がなくなり、交渉に伴うストレスからも解放されますし、もし怪我をしていれば治療に専念出来ます。

4.過失割合に納得出来ない場合は弁護士に相談を

歩行者と車の交通事故で、歩行者が知っておきたい過失割合の考え方を中心に説明しました。

歩行者と車の過失割合は、原則的により強く保護する必要がある歩行者にとって有利な過失割合になります。しかし、保険会社側は、歩行者の過失を厳しく追及して、支払う金額を抑えようとします。

ですから、適正な過失割合に修正する交渉を保険会社と行う必要があります。

この場合、弁護士に相談することは、交渉における強力な1つの武器になることは確実です。

一人で悩まずに、できるだけ相談して客観的な立場から過失割合を決め、少しでも納得のいく示談を早期に成立させましょう。交通事故のお悩みは、ぜひお気軽に泉総合法律事務所にご相談下さい。

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