交通事故紛争処理センターとは?活用するための基礎知識
交通事故の損害賠償金を加害者側に請求しても、加害者側の任意保険会社が満足する賠償金を支払ってくれるとは限りません。
裁判所は、任意保険会社が自発的に支払う額よりも高額の損害賠償金を認める傾向にあります。しかし、裁判では信頼できる証拠が充分そろっていなければいけませんし、手間もかかりがちです。
「示談交渉ではもう埒が明かない、だけどいきなり裁判はちょっと…」というときに便利な機関が「交通事故紛争処理センター」です。
交通事故紛争処理センターの手続はすべて無料です。事情を弁護士に相談し、その弁護士が被害者様と保険会社の意見を聞いて和解案を提案、それでもだめなら、審査会による裁定をしてもらえます。
裁判所のこれまでの判断に基づいて和解案や裁定がされますから、損害賠償金の増額を狙えます。
もっとも、交通事故紛争処理センターを利用できない場合がありますし、具体的な事情によっては、手に入るお金が裁判より減ってしまうおそれもあります。紛争処理センターの弁護士は被害者様をできる限りサポートしますが、あくまで中立の立場です。
ここでは、示談交渉がうまくいっていない被害者様に、交通事故紛争処理センターの基本を分かりやすく説明します。
このコラムの目次
1.交通事故紛争処理センターとは
交通事故紛争処理センターとは、被害者様と加害者側の間の交通事故の損害賠償金に関する交渉の解決をサポートするための「ADR」、裁判外の紛争処理機関です。
交通事故紛争処理センターによる損害賠償請求手続の特徴は、示談と裁判の中間的なものです。
示談交渉で保険会社と和解すれば、裁判よりも早くお金が支払われますが、その金額は、裁判をした場合に比べるとかなり低いことがほとんどです。
一方、裁判にすると、(証拠がそろってさえいれば)示談よりもはるかに高額の損害賠償金を手に入れる可能性があります。もっとも、証拠の取り調べなどを厳しく行いますから時間がかかりますし、証拠不十分と裁判官が判断すると、かえって賠償金額が下がってしまうリスクもあります。
そこで、被害者の方の迅速かつ効果的な損害賠償金の受け取りを促進するために、裁判所を使わず、しかし法律専門家の援助や監督のもとで紛争を解決する交通事故紛争処理センターが設置されているのです。
手続をすることができるセンターの支部および相談室は、以下のとおりです。
札幌支部・仙台支部・東京本部・さいたま相談室・名古屋支部・静岡相談室・金沢相談室・大阪支部・広島支部・高松支部・福岡支部
2.手続の流れ・仕組み
交通事故紛争処理センターでは、「弁護士との無料法律相談→相談した弁護士による保険会社との和解のあっせん→審査会による事件の審査」という流れで手続が進みます。
(1) 弁護士無料相談
交通事故の専門的な知識と経験を積んだ弁護士と、無料法律相談をすることができます。
裁判ほど厳しくはありませんが、交通事故紛争処理センターでも手続上、損害賠償請求するための証拠の提出・事実の証明・より多い賠償金が支払われるべきだという主張をしなければいけません。
交通事故事件では様々な相場や制度が公表されていて、その解説サイトもインターネット上にたくさんあります。
しかし、現実の交通事故の損害賠償請求では、様々な例外的な事情によりその相場の中でも金額が大きく変わります。
検査結果やカルテ、診断書など、重要な証拠の量や質によっては、相場よりかなり低い金額になってしまうこともあります。
この後に続く手続で必要となる証拠や必要書類、説明すべき主張内容について、弁護士から助言を受けましょう。
(2) 和解のあっせん
先ほどの相談担当弁護士が被害者様と保険会社の間に入り、お互いに主張を譲り合い和解するようにあっせんする手続です。
相談担当弁護士が双方の主張を確認した後、裁判所やセンターのこれまでの判断をもとに和解案を提示します。
被害者様と保険会社の双方が和解案に合意すると、相談担当弁護士の立ち合いのもとで、和解内容を証明する示談書または免責証書と言った書類を作成、賠償金が支払われます。
被害者様と保険会社のどちらか、一方でも和解案に同意しない場合・相談担当弁護士がこれ以上話し合っても無理だと判断した場合など、「話し合いをサポートする」ことで解決できない状況になれば、和解のあっせん手続は終了します。
(3) 審査
和解のあっせんがうまくいかなかったとき、紛争処理センターの審査手続を利用することもできます。
審査手続では、法律学者や裁判官経験者、弁護士などが審査員となる「審査会」が、損害賠償金の金額や内容について定めた「裁定」を下します。
保険会社は、この裁定を拒否することができません。ここが和解のあっせんとは大きく違うポイントです。
原則として、裁定が現実の解決になるかは被害者様の判断次第です。
被害者様が、裁定の告知を受けた日から14日以内に裁定に同意すれば、和解のあっせんと同様に示談書または免責証書が作成され、損害賠償金が支払われます。
不同意または期間内に回答をしなかった場合は、もう交通事故紛争処理センターに残る手続はありません。
あとは、調停や裁判、弁護士会などが運営する他のADRの利用を検討することになります。
3.交通事故紛争処理センターのメリットとデメリット
交通事故紛争処理センターを利用するメリットは、無料で専門家のサポートを受け、公平な手続で、裁判より早く示談よりも多くの損害賠償金を手に入れられる可能性があることです。
一方、デメリットとしては、センターの専門家はあくまで中立的立場であり被害者様の味方というわけではなく、正式な裁判手続でもないので、弁護士に依頼した場合よりも金額が低くなるおそれがあることなどがあげられます。
(1) メリット
費用は無料
交通事故紛争処理センター では、手続費用はまったくかかりません(必要書類集めやセンターへの交通費はかかります)。
示談以上の増額の可能性
被害者様ご本人で任意保険会社と交渉をしても、保険会社は最低限の支払いを保障している自賠責保険と同じ水準の金額しか支払おうとしません。
交通事故紛争処理センターを利用すれば、自賠責保険よりも高い相場で賠償金を認めることが多い裁判所の判断基準をもとに和解のあっせんや裁定をしてくれますので、増額が見込めます。
もちろん、過失割合などの争いについても、公平な立場からサポートをしてくれます。
早期解決できる可能性
さすがに保険会社の主張を丸呑みした場合よりは時間がかかるとはいえ、裁判に比べれば早く解決ができます。
月1の和解あっせん日を3~5回、3か月から半年程度で終わります。1年弱かかることも珍しくない裁判より、損害賠償請求問題のストレスにさらされる期間が短くて済むでしょう。
機関の公平さと配慮のある手続
交通事故紛争処理センターは、保険会社に肩入れすることのない、公平かつ公正な機関です。
一方で、損害賠償金の判断の基礎は裁判所の基準に基づきます。
和解あっせんの前に弁護士が相談をしてくれる、審査会の裁定については、被害者様だけが受け入れるかどうか選択できるなど、保険会社に対抗するため被害者様への配慮もされています。
(2) デメリット
担当弁護士はあくまで中立
裁定をする審査会はもちろん、最初の法律相談で親身に助言をし、和解のあっせんをしてくれる弁護士も、公平公正、つまり中立の立場です。被害者様に肩入れをしてくれるというわけではありません。
損害賠償金が増額する可能性が生じるのは、あくまで裁判所の基準が利用されるからです。その基準の中で少しでも賠償金が増えるようにしてくれるわけではないのです。
遅延損害金が請求できない
裁判で勝訴すれば、事故発生時から損害賠償支払までの遅延損害金を請求することができます。
交通事故紛争処理センターの手続では、遅延損害金を手に入れることはまずできません。
損害賠償金のわずかな割合しか認められない遅延損害金ですが、交通事故の損害賠償金は高額ですから、意外と無視できません。
原則として被害者様が出席しなければいけない
手続ではセンターに被害者様自ら出向かなければならないことが原則です。
交通費は自己負担ですし、センターは平日しか開いていません。仕事を休んでも、その休業補償はされません。
具体的事情やタイミングによっては利用できないことがある
基本的に、手続の対象は、自動車事故の加害者側の任意保険会社との示談交渉。手続を利用することで、損害賠償問題が完全に決着できる状況になっていることが必要です。
そのため、加害者が自転車に乗っていたケース・加害者が任意保険に加入していなかったケース・まだ治療中、後遺障害等級認定手続中で、任意保険会社との示談交渉が始まっていないタイミングなどでは、手続を利用できない、または加害者側の同意がなければ利用できないことがあります。
4.交通事故紛争処理センターの利用でも弁護士に相談・依頼!
交通事故紛争処理センターを利用するときにも、弁護士に代理人を依頼することができます
センターで相談や和解のあっせんを担当する弁護士はあなたの代理人ではありません、保険会社との間を取り持つ中立的な立場にすぎず、組織力とプロとしての知識や経験の蓄積を持つ保険会社との間の法律知識の格差を埋めるためのサポートをしてはくれますが、被害者に有利になるようにしてくれるわけではないのです。
また、センターは平日しか空いていませんし、あっせんでは1回1時間は少なくともかかるでしょう。センターへの往復の時間を考えると仕事を少なくとも半日は休む必要があります。その補償はされません。弁護士に依頼すれば、日当の支払いを考慮しても得をしますし、何より手間を省けます。
さらに、交通事故紛争処理センターは後遺障害等級認定の手続や認定される等級に関する争いにはノータッチです。
後遺症が残っても認定がなければ後遺症の賠償金は受け取れません。認定される等級は損害賠償金額を大きく左右します。
後遺症が残ってしまいそう、残ってしまったというときは、弁護士への依頼がとても大切なのです。
交通事故に関する経験豊富な泉総合法律事務所は、初回相談・着手金が無料となっております。
在籍している交通事故紛争解決の経験豊富な弁護士なら、皆様のご希望を叶えられる可能性も大きくアップします。
現在、保険会社との示談交渉でお困りの場合は、交通事故紛争処理センターのご利用の前に、ぜひ一度、泉総合法律事務所の無料相談をご利用ください。皆様のご来店お待ちしております。
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