交通事故の被害者請求のメリットとデメリット
交通事故に遭ってしまったときに、ケガや後遺症の損害賠償金を自賠責保険会社に請求する方法の一つが「被害者請求」です。
被害者請求によれば、損害賠償請求で必要な資料を、被害者の方自ら積極的に集めることで、より多くの損害賠償金を手に入れやすくなります。
このコラムでは交通事故の被害者請求のメリットやデメリットを説明します。また、被害者請求を行う際の注意点も説明します。
このコラムの目次
1.被害者請求とは
被害者請求とは、被害者の方が、自ら、加害者側の自賠責保険会社に対して損害賠償金を請求する方法です。
しかし、加害者が損害賠償を拒否した場合や、賠償できるお金を持っていない場合、そのままでは、被害者の方は泣き寝入りすることになってしまいます。
そこで、被害者自身が、直接、自賠責保険会社に対して賠償金を請求できることにしたものが、被害者請求なのです。
2.被害者請求の種類
被害者請求の中にも、大きく分けて二つの種類のものがあります。
(1)仮渡金請求
「仮渡金」とは、当面の治療費や生活費のための一時金です。
正式な損害賠償請求手続には時間がかかってしまいますから、被害者の方がすぐに必要としているお金を請求する必要があるとして認められた制度です。
2019年現在、支払額は、ケガの内容や程度に応じて、40万円・20万円・5万円のいずれかとなっています。
なお、被害者の方が亡くなられた死亡事故の場合にご遺族に支払われる仮渡金の金額は、290万円です。
もっとも、40万円や20万円の支払いが認められるケガは、脊髄損傷や内臓破裂など、かなりの重傷に限られます。治療費については、少なくとも「一括払い」により何とかなることが多いでしょう。
一括払いとは、加害者が加入している任意保険会社が、治療費を通院先の医療機関に支払うサービスです。
ほとんどの任意保険会社が行っていますが、保険会社の意向次第で不十分な内容になるおそれがあるので過信は禁物です。
ですから、基本的には次に説明する本請求が、被害者請求では重要になります。
(2)本請求
交通事故による損害賠償の金額を、被害者の集めた資料に基づいて正確に定めて請求する手続です。
本請求の中でも、さらに、ケガに関する損害賠償と、後遺症に関する損害賠償では、手続が異なっています。
後遺症の損害賠償請求をするには、「後遺障害等級認定手続」により、後遺症が「後遺障害」に当たると認定されることが必要だからです。
事故によるケガが治療を続けても回復しなくなることを、「症状固定」と言います。
症状固定のときになお残っている症状、つまり、後遺症があったとき、後遺症について損害賠償請求ができるかや、金額を決める手続が、後遺障害等級認定手続です。
被害者請求をした場合は、後遺障害等級認定手続の資料も被害者の方が集めることになります。
3.被害者請求のメリットとデメリット
具体的な事情と自分の希望を最もよく理解している被害者の方自身で必要な書類・資料を収集できることが、被害者請求の大きなメリットです。
一方、デメリットはその裏返しです。交通事故の損害賠償請求でどのような資料が必要なのかの知識が不可欠ですし、また、手間も大きくなってしまいます。
その他のメリットやデメリットも加えて、以下で詳しく説明しましょう。
(1)被害者請求のメリット
①充実した損害賠償請求がしやすくなる
交通事故の内容や被害者の方のケガや後遺症など、具体的な事情に応じて、出来る限り多くの損害賠償金を手に入れられるよう、充実した資料収集をすることができます。
交通事故の損害賠償請求では、全般的に、
- 交通事故が原因で損害を受けたという「因果関係」
- 損害の内容
- 損害の程度
などを証明する必要があります。
特に、後遺障害の認定では、資料を十分集めなければいけません。
よりよい認定を受けるためには、少しでも説得力のある資料を集めるべきですから、被害者請求は重要な手段になります。
②提出資料の内容を把握できる
加害者側の任意保険会社に手続を任せる加害者請求・事前認定では、どのような資料が提出されたか、資料にどのような内容が記載されていたのかが分かりません。
そのため、事前に自賠責保険会社からどのような対応がされるかの予測が付きにくくなってしまいます。
被害者請求をすれば、自賠責保険会社に請求した際に提出する資料の種類や内容を被害者の方が把握できます。
自賠責保険会社の対応を予測し、後遺障害等級認定の審査結果に対し、異議申立てにより審査のやり直しをする場合にも、迅速かつ的確な対策をすることがしやすくなります。
③後遺症の賠償金支払いが早い
被害者請求で後遺障害等級認定をした場合、後遺障害の認定がされれば、すみやかに後遺症の損害賠償金が支払われます。
④被害者の方に過失があってもさほど損害賠償金が減らない
交通事故で受けた損害について、全額を賠償してもらえるとは限りません。多くの場合は、被害者の方にも、「過失」があったとされてしまうからです。
過失とは、法律などが定めている注意義務への違反のことです。
法律は世間一般の常識よりも厳しい義務を定めてしまっているため、一方的な追突事故などを除くほとんどの事故では、被害者の方にも過失があるとされてしまうのです。
そして、任意保険への請求や裁判での請求では、加害者と被害者の方との過失の程度を割合で示した「過失割合」に応じて、請求できる金額が減ってしまいます。
一方、自賠責保険への被害者請求では、被害者の方を保護するために、過失による損害賠償金の減額を制限しています。
たとえば、被害者の方の過失が6割であっても、損害賠償金が減額されることはありません。さらに、7割になっても、2割しか減額されません。
被害者請求で自賠責保険会社に直接損害賠償金を請求すれば、過失の影響をさほど受けずに賠償金を得ることができます。
(2)被害者請求のデメリット
①手間がかかりやすい
被害者請求では、多くの書類を集めなければなりません。
加害者請求・事前認定では、加害者側の任意保険会社がほとんどの書類を集めてくれますが、被害者請求では、そうはいきません。
詳細は項目を改めて説明しますが、書類の中には役所など病院以外で手に入れる必要がある書類もあります。
病院関係の書類でも、どのような内容が記載されたどの資料が必要なのかを判断し、担当医に伝え、手に入れることは、大きな負担になるおそれがあります。
②的確な資料を集めるための知識が必要
被害者請求でありったけの書類を集めて損害賠償請求をすれば、確実に満足のいく支払いを受けられるとは限りません。
損害賠償請求や後遺障害等級認定における、法律的なポイントを押さえた資料の収集が必要です。
それが出来なければ、手間がかかってもほとんど意味がありません。
4.被害者請求をする際に注意すること
被害者請求のメリットを生かし、デメリットを抑えるには、以下の点に注意してください。
(1)事故直後から証拠を残す行動を心がける
被害者請求をしても、資料がない、もしくは、資料の記載内容がスカスカでは、満足のいく損害賠償請求を自賠責保険会社から手に入れることはできません。
- 警察の現場検証への立ち合い
- 医師の診察
については、出来る限り早く行い、そして、積極的に具体的な事故の内容や自覚症状などを警察官や担当医に伝えましょう。
特に、医師の診察は重要です。1週間以内には、必ず診察を受けてください。
その後も、担当医から通院の指示を受けている間は、1か月以内の間隔で通院を続けるようにしましょう。
警察や医師が作成する資料を生み出し、その内容を充実させるには、被害者の方の行動が不可欠なのです。
事故直後はどうしても心の余裕を無くしてしまい、適切な行動がとりにくいことは承知の上です。それでも、出来る限り、被害者請求を見据えた行動をするようにしてください。
(2)担当医とのコミュニケーションを深める
ケガや後遺症に関する損害賠償では、担当医が作成したカルテや、診断書、意見書などが特に重要な資料になります。
損害賠償請求や後遺障害等級認定は、法律的な制度ですが、その判断材料は、やはり、医師、特に担当医の医学的な専門的見解によるところが大きいからです。
担当医からの質問に対して単にうなずいているだけでは不十分なことが多いでしょう。
通院のたびにメモを取り、積極的に受診の際の症状を具体的に説明してください。
担当医の指示にしっかり従うことは前提ですが、検査が不足しているのではないか、診断書の内容が不十分ではないかと思ったら、勇気を出して、担当医に確認しましょう。
(3)弁護士に早く相談する
被害者請求のデメリット、すなわち、書類収集の手間と専門知識の必要性は、弁護士に依頼すれば解決します。
被害者請求により自賠責保険会社から手に入れられる損害賠償金は、あくまで最低限のものです。
交通事故による損害を完全に埋め合わせるには、加害者または加害者側の任意保険会社との示談や訴訟が必要です。
示談交渉や裁判を弁護士に依頼するのであれば、最初から依頼したほうが手っ取り早いでしょう。
もちろん、費用などの負担に不安がありましたら、相談するだけでも構いません。
弁護士費用特約などで弁護士費用の問題をクリアできるのであれば、警察や病院への連絡と並んで、出来る限り早くに弁護士に相談すべきでしょう。
5.交通事故の被害者請求は弁護士へ
重いケガを負ってしまったときや後遺症が残ってしまったときなどには、自賠責からの損害賠償金を増やすため、加害者側の任意保険会社に手続を任せっきりにするよりも、被害者請求でとことん資料を集めて、少しでも多くの賠償金を手に入れられるようにすべきです。
しかし、被害者請求は何といっても手間がかかります。必要書類が多いうえに、被害者の方自身が作成しなければならない書類もありますし、担当医に対してどのような協力を依頼すればいいのかも、一般の方にはわかりづらいでしょう。
被害者請求をするのであれば、弁護士に相談・依頼をすることが重要なのです。
弁護士に手続に関する助言をしてもらい、また、手続を任せることで、交通事故の損害賠償請求制度のポイントを押さえた適切な被害者請求が可能になります。
交通事故でケガや後遺症を負ってしまい、被害者請求を検討されていらっしゃる被害者の皆さんは、是非、泉総合法律事務所へとご相談ください。皆様のご来訪をお待ちしております。
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