保険会社によって違う弁護士費用特約の内容とは?
2019年現在、交通事故の弁護士費用について、「弁護士費用特約を使えば弁護士費用を保険会社に支払ってもらえる」ということが世間一般に浸透するようになりました。
弁護士費用特約の利用が広まり、人気が高まるにつれて、様々な保険会社により、弁護士費用特約がある保険を販売しています。
弁護士費用特約の内容は、保険会社が日本弁護士連合会(通称「日弁連」)と協定を結んでいるかにより、異なっています。
弁護士費用特約には、日弁連リーガル・アクセス・センター(通称「LAC」)が影響を与えているからです。
このコラムでは、保険会社の間での弁護士費用特約のサービス内容などの違いについて説明します。
交通事故に遭ってしまい、弁護士費用特約を利用しようとしている方が、ご自身が加入されている保険の弁護士費用特約の内容を理解する手助けとなれば幸いです。
このコラムの目次
1.日弁連と保険会社が協定を結んでいるかどうか
弁護士費用特約とは、交通事故に遭ってしまった方が、弁護士費用を加入している保険会社に支払ってもらえるという保険の特約です。
弁護士費用特約は、弁護士費用特約を付けた保険を販売している保険会社が、日弁連と事前に協定を結んでいるかどうかで、大きく2つに分けられます。
(1)日弁連と保険会社が協定を結んでいる場合
この場合の、弁護士費用特約が付いている保険は、正式には「権利保護保険」と言います。通称「弁護士保険」とも呼ばれています。
権利保護保険は、LACが直接に関与している保険制度です。そのため、権利保護保険によるサービス全体を含めて、「日弁連LAC制度」と言われることもあります。
日弁連と協定を結んでいる保険会社は、「協定保険会社」などと呼ばれています。
制度運営はLACが行っていますが、保険商品の販売は、協定保険会社が行っており、弁護士費用の支払いも、協定保険会社が行います。
(2)日弁連と保険会社が協定を結んでいない場合
弁護士費用特約は、LACと協定を結んでいない保険会社の保険にも付加されていることが珍しくありません。
このタイプの弁護士費用特約とLACは、直接の関わりがありません。そのため、LACに基づき定められている権利保護保険の内容とは、サービスの内容などに違いが生じます。
2.協定保険会社かどうかによる特約内容などの違い
(1)弁護士紹介制度があるか
①協定保険会社の場合
保険会社を通じて、居住している地域をカバーしている弁護士会から、弁護士の紹介を受けることができます。
②協定保険会社ではない場合
弁護士の紹介を受けることはできません。被害者の方自ら、弁護士を探して依頼する必要があります。
③弁護士紹介制度の注意点
便利に見える弁護士の紹介制度ですが、問題点があります。
弁護士会からの弁護士の紹介では、弁護士費用特約を利用された方自身の具体的な事情に応じた弁護士が紹介されることが期待できません。弁護士会からの紹介は、登録名簿の記載の順番にされるだけだからです。
ちょっとしたけがの場合はともかく、それなりの被害を受けた場合には、弁護士を探す手間が面倒でも、自分で弁護士を探すべきです。
協定保険会社と弁護士費用特約を結んでいる場合でも、弁護士会からの紹介を利用せずに自分で見つけ出して依頼した弁護士についても、弁護士費用特約は利用できますから、ご安心ください。
(2)弁護士費用を立替払いする可能性
①協定保険会社の場合
原則として、弁護士が保険会社に直接弁護士費用の支払いを請求し、保険会社が弁護士に直接支払います。ですから、被害者の方が弁護士費用を立替払いすることは、ほとんどの場合、ありません。
②協定保険会社でない場合
弁護士事務所や保険会社によっては、被害者の方が一時的に弁護士費用の全額を弁護士に支払い、その後、保険会社から弁護士費用相当額の保険金を支払ってもらう場合があります。
この場合、一時的にせよ、被害者の方が、弁護士費用を立て替え払いする負担が生じます。
(3)弁護士費用の計算方法の違い
①協定保険会社の場合
この場合、日弁連と各保険会社の間での協議に基づいて、「LAC基準」と呼ばれる弁護士費用の計算基準が作られています。
また、弁護士も、原則としてLAC基準に従った弁護士報酬を委任契約の中で定めます。
なお、弁護士は、必ずLAC基準に従うとは限らず、それ以上の金額を弁護士報酬とすることも可能です。その差額は自己負担となりますから、弁護士との契約の際には注意をしましょう。
②協定保険会社でない場合
日弁連と協定を結んでいない保険会社は、社内内部で独自に弁護士費用を計算する基準を作っています。
大まかな計算方法はどの保険会社もLACの基準と似たようなものですが、それぞれの保険会社で細かな違いがあります。
一方、弁護士も、単にLACの基準に縛られないというだけでなく、LACを通じた場合はLACの基準に従う弁護士であっても、LACを利用しない場合は、LACとはかなり異なる基準で弁護士報酬を請求することがあります。
3.弁護士費用の自己負担リスク
計算方法や弁護士費用の範囲に関して、計算基準や弁護士が出費した費用の扱いに保険会社と弁護士との間で食い違いが生じることがあります。
そうなると、保険会社が弁護士費用を一部支払ってくれず、その分を被害者の方が自己負担せざるを得ない場合あります。
(1)弁護士費用の計算方法が保険会社と弁護士で異なる場合
弁護士費用の中でも多くの割合を占めている「成功報酬」は、2019年現在、
「一定の固定された金額+『経済的利益』×10~30%」
といった形で計算されることがほとんどです。
この「経済的利益」について、LACや保険会社独自の基準では「弁護士が介入したことにより増加した保険金の金額」としています。
一方、弁護士事務所では、「経済的利益」を「弁護士が介入する前から保険会社が支払うと言っていた分も含めた、最終的に支払われた保険金の全額」とすることが珍しくありません。
支払われた全額を経済的利益とする場合、増額をベースにする場合よりも、パーセンテージが小さく設定されていることが多い(たとえば、全額ベースならばその10%が成功報酬に追加されるのに対して、増額ベースだと30%など)ため、保険会社からの提示額が低く、また、大きく増額された場合には、「増額分を経済的利益とした弁護士費用」>「支払われた全額を経済的利益とした弁護士費用」となることがありえます。
しかし、逆に、もともと保険会社からの提示額が高額で、また、さほど増額できなかった場合には、「増額分を経済的利益とした弁護士費用」<「支払われた全額を経済的利益とした弁護士費用」となりがちです。
後者のような場合に、弁護士が支払われた保険金全額を経済的利益として計算した弁護士費用を請求すると、保険会社は、増額分を経済的利益として計算した、より小さい金額しか弁護士費用として認めず、それ以上は支払わないと主張することがあります。
結果、その差額を被害者の方が自己負担するおそれがあります。
事前に弁護士に弁護士費用の計算方法について一言確認をしましょう。
(2)保険会社により上限額を超えるかが異なる場合
この計算基準の問題は、弁護士費用特約の上限を超えるかどうか、上限を超えたとしても負担がいくらになるかという問題にも関わります。
2019年現在、ほとんどの保険会社は、保険会社が弁護士費用特約に基づいて支払う弁護士費用は、300万円までであり、それを超えた弁護士費用は、被害者の方の自己負担となるという上限を設定しています。
逆に言えば、上記のような弁護士報酬そのものの金額に関する保険会社と弁護士との意見の食い違いが生じない限り、基本的に300万円までの弁護士費用は、たいていの保険会社は支払ってくれるわけです。
ところが、保険会社により、内部の弁護士費用の計算方法は異なっています。
そのため、協定保険会社でない場合では、ある保険会社では弁護士費用は300万円以下なので自己負担は発生しないが、他の保険会社では弁護士費用が300万円を超えると計算され、自己負担が発生するおそれがあります。
(3)保険会社が請求の一部を「弁護士費用」と認めない場合
協定を結んでいてLACの基準によっているか、それとも、協定を結んでいなくて保険会社独自の基準によっているかにせよ、保険会社は、弁護士が請求した費用の一部を「『弁護士費用』には当たらない」として支払いを拒否することがあります。
弁護士が交渉してもどうしても保険会社が支払わない場合、その部分については、被害者の方の自己負担となるおそれがあります。
この問題は、金額自体の問題ではありませんし、また、上限を超えるかどうかの問題でもありません。
たとえば、交通事故によるけがや後遺症が、交通事故が原因であることや、「後遺障害」の等級に認定されるような重症なものであることを証明するために、医学的な検査結果を分析した鑑定結果を証拠として提出することがあります。
レントゲンやMRIの画像からわかるけがや症状の内容・程度に関する意見などです。
この鑑定にかかった費用は、弁護士からすれば、仕事に関して必要な経費ですから、弁護士費用の項目の一つである、「実費」に当たります。要するに、交通費や切手代などと同じように考えられるのです。
しかし、保険会社の担当者の中には、「鑑定などにかかった費用は、弁護士の仕事に必要な経費とは言えないから、実費ではない。だから、弁護士費用に含まれない。よって、鑑定費用を弁護士費用特約により支払う義務はない」と主張する人もいます。
どの保険会社がそういう傾向にあるか、というよりも、保険会社の担当者次第というところがあるようです。
ある程度基準があっても、どうしても、細かな理解では、個人の考えが反映されてしまいます。ですから、協定保険会社に、LACの基準に基づいて弁護士費用を支払ってもらうときにも問題が生じることがあります。
もちろん、基準の解釈は、法律の専門家である弁護士の土俵です。
交通事故に精通した弁護士であれば、保険会社の言われるまま被害者の方に請求することはないでしょう。しっかりと保険会社の担当者と交渉をして、説得に当たります。
しかし、それでも、交渉は必ずうまくいくとは限りません。
さほど高額になることはないでしょうが、弁護士費用特約を利用したとしても、鑑定費用などの細かな実費を自己負担する可能性があることには気を付けてください。
4.弁護士費用特約の利用は弁護士に相談を
2019年現在、弁護士費用特約の利用はますます盛んになっています。
弁護士費用特約が付いている保険なら、弁護士費用を保険会社に支払ってもらえることは、どの保険でも共通のサービスです。
もっとも、保険会社が日弁連と協定を結んでいるかどうかで、弁護士の紹介を受けられるか、弁護士費用を立替払いする可能性があるか、弁護士費用の計算方法などが異なります。
特に、弁護士費用に関しては、保険会社や弁護士次第で、自己負担が生じてしまうかどうかに違いが生じます。事前に保険会社に連絡をすることで、弁護士と保険会社の費用に関する交渉をスムーズに運べるようにしておきましょう。
もちろん、交通事故の経験が豊富で、保険会社との対応にも精通した弁護士に依頼することが重要になります。
泉総合法律事務所では、これまでに多数の交通事故被害のご相談をお受けしており、解決実績も豊富にございます。弁護士費用特約を利用したいものの、保険契約の内容がわからず、不安になっていらっしゃる交通事故の被害者の皆様のご相談をお待ちしております。
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