刑事事件

クレプトマニアの弁護活動|万引きがやめられない方へ

「家族が万引きを何度も繰り返している」「やめようと思っているのに万引きをやめられない」
上記のような場合、「クレプトマニア」の可能性があります。

クレプトマニアとは「窃盗症」「病的窃盗」のことで、1種の依存症(精神障害)です。クレプトマニアの方は「病気」が原因で窃盗行為を繰り返してしまうので、刑罰を与えても状況が改善しないのが通常です。

自分や家族がクレプトマニアの場合、どのように対応すればよいのでしょうか?
また、逮捕された時にはどのように対処すれば良いのでしょうか?

今回は、大変難しいとされる「クレプトマニア」の弁護方法について、弁護士が解説します。

1.クレプトマニアについて

(1) クレプトマニア(窃盗癖)とは

「クレプトマニア(kleptomania)」とは、どのようなものなのでしょうか?

これは経済的な利益を得る目的を持たない(自分で使ったり、売ってお金にしたりするあてもない物を取ろうとする場合や、お金に困ってもいないのに捕まるリスクに明らかに釣り合わない安価なものを取ろうとする場合があります)のに、衝動的に窃盗を繰り返してしまう一種の病気です。

クレプトマニアの方は、窃盗に対する衝動を抑えられず、後先を考えずに物を盗んでしまいます。対象物をほしいと思っているわけではないことが多く、物を目の前にすると過度な緊張状態となって物事の善悪を考えられなくなってしまうケースもあります。

クレプトマニアは薬物やアルコール等への依存症や摂食障害に伴って生じることがあるとも言われていますが、そうした既往症・治療歴のない場合でも発生する可能性はあります。

現在では国際的診断基準も設けられて「精神疾患」として取り扱われていますが、日本ではまだまだ認知されていません。
貧困等の分かりやすい理由もなく万引きを繰り返すので、「悪質」「窃盗癖がある」と片付けられて、何度も刑務所に行くことになる可能性もあります。

(2)クレプトマニア診断基準

日本ではクレプトマニアがまだまだ精神疾患として十分に認知されていませんが、上記の通り、診断基準もあります。

ご自身やご家族がクレプトマニアかも知れない、と思ったら、以下の5つにあてはまる点がないか、チェックしてみてください。これはアメリカの学会で作成され診断に用いられている基準です。(DSM-5、アメリカ精神医学会「精神障害の診断と統計マニュアル)

  • 個人的に使う目的や金銭的価値を得る目的がないのに、物を盗る衝動に抵抗できない
  • 窃盗行為をする直前に緊張感が高まる
  • 窃盗行為をしたら快感や満足感、解放感を得られる
  • 窃盗行為が怒りや報復の表現ではなく、妄想や幻覚への反応でもない
  • 素行症や躁状態、反社会性パーソナリティ障害によっては万引き行為を説明できない

上記の診断基準以外にも、国際的に合意された診断基準(ICD-10)がありますが、同じように「明らかな動機がない」「注意深く計画されたものでない」「他の病気により引き起こされたものとして説明がつかない(記憶障害により支払いを忘れたとか、うつ病により同じ行動を繰り返してしまうといったことがあり得ます)」という要素に着目しています。

これらの診断基準へのあてはめは、専門的医学知識と同種疾患の治療経験がなければ極めて困難な作業ですので、自分や身近な人にあてはまる疑いがある場合には専門医の診断を受けることを強くお勧めします。

2.クレプトマニアによる窃盗の特徴

クレプトマニアによる万引きは、一般的な万引き犯と異なる特徴を持ちます。

(1) 経済的な利益を目的にしない

ひとつ目の大きな特徴は、経済的な利益を目的としないことです。

売り物として並べられている以上、商品には必ず何らかの利用価値や、売ってお金にする交換価値がありますから、上記基準を文字通り厳密に解釈するならば、クレプトマニアは誰が見ても無価値なゴミを持っていく人にしかあてはまらないことになります。

しかし、日本でクレプトマニアの診断治療にあたっている専門医の多くは、「盗み出す時点で具体的に使ったり売ったりする意図・計画がない場合」や「逮捕される危険性やその後予想される処罰を考慮して、あえて盗みをするリスクを取るに値しないほど価値の乏しいものを盗む場合」は、理性的合理的判断によって盗みをしたのではないと評価し、クレプトマニアと診断する可能性を認めています。

また、クレプトマニアによるものとと疑われる万引き等の被疑者は「対象物をどうしてもほしい」という「物」に対する執着がなく、「盗むこと」自体が目的となっているケースが珍しくありません。

万引きのスリルを味わうなどの「愉快犯的な要素」もなく、ただただ衝動を抑えられない方が多数です。

(2) 心底反省しているのに繰り返す

クレプトマニアの場合、もともと「人に迷惑をかけてもかまわない」と考えているわけではなく、衝動を止められずに万引きしてしまっているので、犯行後には深く後悔し、自分を厳しく責めます。

発覚したり逮捕されたりしたときにも、心から反省し「二度とやらない」と誓います。
それでも、病気が原因なので、やめられないのです。

(3) 他の病気と合併している

クレプトマニアは、単独で発症するケースもありますが、他の精神障害を併発していることも少なからずあります。

指摘されることが多いのが摂食障害です。摂食障害となって過食嘔吐などをすると、非常に多額のお金がかかります。また自己評価が極限まで低くなり、本人は非常に辛い気持ちで毎日を送っています。

そんなとき、食べ物を盗って過食嘔吐することだけが人生の楽しみ、自分への慰みとなるようです。
過食のためなら何でもしようという気持ちになり、万引きに及んでしまいます。

※クレプトマニアの問題が我が国で知られるようになったのは最近のことであり、診断基準の妥当性や摂食障害との関係などについて様々な議論があり、必ずしも統一された見解があるわけではありません。
また、自分にとってマイナスになることがわかっているにもかかわらずやめられないという側面は、薬物やアルコールへの依存症に類似するところがあり、クレプトマニアを万引き依存症と表現することもあります。依存症になると、対象を求める欲求がいったん生じるとそれを弱まった理性の力では抑えることができず、直ちに行動に移してしまうのです。
依存症の治療は国家的な課題となっており、対策にも力が入れられています。依存症の治療歴がある場合、優先して入院治療を受け入れてくれる医療施設も存在します。クレプトマニアの原因や治療法はいまだ解明されていない点が多く、精神科医の間でも考え方や実際に行っている治療には大きなばらつきがあります。近隣の医療施設への通院では対処できないような場合には、治療経験の多い医療施設への入院治療も検討すべきです。

3.クレプトマニアに適用される罰則

クレプトマニアは病気のせいで万引きしてしまうので、「情状酌量で通常一般の万引き窃盗犯より刑を軽くしてもらえるのでは?」と考える方もいるでしょう。
しかし、現状では必ずしもそういった運用にはなっていません。

そもそもクレプトマニアという病気自体が広く知られておらず、刑事弁護人もクレプトマニアであることに気づかないまま、被告人を叱責して通常の情状立証で終わってしまうケースも多々あります。
すると、裁判所としても「単なる反省のない被告人」と判断し、重い罪を与えます。

また、クレプトマニアであることがわかっても、具体的にどういった対策を執れば良いのかわからなかったり、弁護人が裁判所にうまく説明できなかったりして重い刑罰が適用される例もあります。

訴追側の検察庁は、クレプトマニアという病気はそもそも存在しないとか、病気そのものが観念できるとしても被告人はそれにあたらないなどとして、訴訟上激しく否定してくることがほとんどです。
弁護人は検察側の反論に対応したうえで、限られた時間で裁判官に刑罰より治療が有効であることを理解してもらわねばならないのです。

クレプトマニアであっても何度も万引きを繰り返していたら実刑判決を受け、刑務所に行かねばなりません。出所後また万引きをしたら、再度逮捕されてまた刑務所に行く必要があります。

こうして人生の多くを刑務所内で過ごすことになりかねないのが、クレプトマニアの直面する現実です。

4.クレプトマニアの弁護方法

クレプトマニアだからといって、常に被告人に有利な結論が認められるわけではありませんが、次のような裁判例もあります。

執行猶予中に万引きを繰り返したクレプトマニアの女性に再度の執行猶予を認めた裁判例前橋地裁太田支部平成30年12月3日判決

被告人は有名な女性マラソン選手で、これまで万引きで3回の起訴猶予処分、2回の罰金刑(略式命令)を経て、懲役1年・執行猶予3年の有罪判決を受けましたが、そのわずか3ヶ月後に400円相当の菓子を万引きしました。
執行猶予期間中の犯行であり、再度の執行猶予を認めてもらう要件は厳しいのですが、裁判所は、女性がクレプトマニア・摂食障害であり、治療意欲があり、その環境が整っていることなどを理由に、再度の執行猶予判決(保護観察付き)としました。

このような判決を勝ち取るために、クレプトマニア万引きでは、どのように弁護をするのが効果的なのでしょうか?

(1) 刑罰はあまり意味がないと主張する

一般的に、犯罪者に刑罰を与えるのは反省を促して更生させるためです。
刑罰を受けると、本人が「こんなことをしてはいけない」と理解して、まじめに生きていけるようになります。

ところがクレプトマニアの方は、いくら罰を与えて反省を促しても更生することは困難で、刑務所内でも盗みを繰り返すこともあり、刑務所を出て10日で再度万引きに及ぶ方もいます。

クレプトマニアの弁護では、このように刑事罰を与えてもあまり再犯防止のために意味が無いことを説得的に主張します。

(2) 通院・カウンセリングなどの再発防止に努める

再犯を防ぐために重要なのは、刑罰よりもクレプトマニア(窃盗症)の治療です。
具体的には、カウンセリングや精神科への通院などにより、症状を緩和していきます。

日本には、クレプトマニアに対応している精神科が少ないのが現状です。ネットなどを使って対応してくれる医院を探し、診察と診断を受けるところから始めましょう。

精神科に通院して医師と頻繁にコミュニケーションをとりながら、専門家による個別カウンセリングとグループミーティングといった一般的治療法を繰り返すことにより、徐々に万引きから離れていける方がおられます。
また、医療現場の多数の支持を受けているとは言えませんが、独創的治療法を開発実践している医療機関やそのフォロワーもあり、その元で治療の成果を上げる人もおいでです。

残念ながら、これらの治療による再犯防止効果について、いまだ論文や統計による裏付けは十分ではありませんが、一部の医師の献身的努力により、少しずつ治療のノウハウと改善例が蓄積されつつあるのが現状です。

裁判では、今後こういった具体的な治療を行っていき、再犯防止に努めること、現に成果が上がっていることをアピールして執行猶予判決の獲得を目指します。

単に治療するつもりがある、医師の元に通っているというだけでは、反省の態度を示しているという範囲で評価されるにすぎません。

一度執行猶予付き有罪判決を受けた後また万引きをしてしまい、再度の執行猶予を認めてもらうためには特別の事情が必要であるという状況では、実際に十分な治療を行い、顕著な成果が上がったといえ、それを担当医師に保証してもらったうえ、今後も長期間同様の治療を継続することが確保されているといった、諸々の有利な条件を整えることが必須となるでしょう。

(3) 裁判所にクレプトマニアについて理解を求める

クレプトマニアの被告人の弁護では、裁判所に理解を求めることが必須です。

そもそも捜査機関は被疑者がクレプトマニアである証拠など収集・提出しないのが通常ですから、弁護側が立証しないと裁判官に伝わりません。
また、裁判官がクレプトマニアについて深く理解しているとは限らないので、「そもそもクレプトマニアとは何か」についても説明が必要です。

たとえば、医師から診断書をもらったり、通院歴やカウンセリングなど記録を取り寄せたり、クレプトマニアがどういった病状か、一般的に行われる治療内容や効果について資料を集めて提出したりします。

もちろん、検察側からはそれを打ち消すような主張や証拠が提出されますから、その反論に対応して説得力を保つための活動も不可欠です。
刑事裁判でクレプトマニアの主張を行う場合には、通院先を決めるにも単に治療をしてくれればどこでもいいというわけではなく、医師が精密な診断書の作成や公判廷での証言に協力してくれる可能性も踏まえて探す必要があります。

このように「一連の万引きは本人がクレプトマニアであるからこその犯行」であることを強調し、「罰則よりも治療が必要」であることを裁判所に認識してもらうことで、刑罰を軽くしてもらうことを目指します。

刑務所に行くのではなく、その後に必要な治療を受けて病気から少しずつ脱却していく必要があることを、裁判所に理解してもらうことがポイントです。

5.クレプトマニアの方の弁護もお任せください

クレプトマニアは、弁護士でも知らないことの多い病気です。しかし、本人を守るはずの弁護人がクレプトマニアについて理解していないと、裁判所に「本人がクレプトマニアです」と訴えることすらできません。

クレプトマニアの弁護は、その症状をよく知り弁護方法に精通している弁護士に依頼すべきです。

泉総合法律事務所では、クレプトマニアの刑事弁護も多数お引き受けして参りました。
窃盗衝動を止められずにお困りの際には、お早めにご相談下さい。

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