個人再生で減額できる?交通事故の損害賠償金
個人再生手続は、裁判所を利用して支払うべき借金などの金銭の支払負担を大幅に減額してもらい、減額された支払をすると、原則として残額については免除される債務整理手続です。
この債務整理手続は、自己破産と異なり裁判所による財産処分がなく、また、マイホームに関しては、住宅ローンが残っていても、抵当権に基づく処分を免れることができるため、一定の財産・収入がある方にとっては便利な手続です。
もっとも、個人再生手続を利用するには一定の条件をクリアしなければなりません。また、例外的に支払負担が十分軽減されない恐れのある支払負担もあります。
たとえば、交通事故の加害者となってしまい、多額の賠償金を支払うことになってしまった場合、場合によっては、個人再生手続でその減額をすることができない恐れや、負担の先送りしかできない恐れがあります。
ここでは個人再生手続における交通事故の損害賠償金の扱いについて説明します。
このコラムの目次
1.個人再生の基本
まず、個人再生では、申立先の裁判所に、支払負担全額のうち一定の金額のみを原則3年(最長5年)にわたり支払うとする再生計画案について、「現実に履行可能である」と認可してもらう必要があります。
再生計画が認可されると、減額された分についてのみ、計画案に記載されたスケジュールおよび金額で支払えば済むようになります。
そして、再生計画に基づく返済を完了すれば、残りの負債は原則として支払う必要がなくなります。
ところが、中には、手続の影響を受けなかったり、再生計画から除外されたり、再生計画に基づく返済をしたにもかかわらず残額の負担がなくならない支払負担もあります。
交通事故の損害賠償金は、残額の負担がなくならない場合があるので問題となるのです。
2.交通事故の損害賠償金の内容
交通事故を起こしてしまい、相手の自動車などの財産に損害を与えてしまった場合や、相手の生命や身体に損害を与えてしまった場合には、法律上「不法行為に基づく損害賠償」を、交通事故の相手である被害者が、加害者に対して請求できるようになります。
(1) 自賠責保険について
もっとも、交通事故では、単純に被害者が加害者に請求するだけということにはなりません。
たとえば、人身事故については、自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責保険と略称します)による損害賠償がされます。
自賠責保険は、自動車所有者は必ず加入しなければならない強制保険です。ですので、最低限この保険により支払われた分については、加害者は支払わないでよいことがほとんどでしょう。
ところが、自賠責保険では、支払金額は最高120万円まで、しかも、けがや死亡などの人身事故のみで、物損事故、つまり、自動車の修理費などは補填してくれません。
(2) 任意保険について
自賠責保険で不足する損害を補うには、加害者側が、自賠責保険以外に、任意保険に加入している必要があります。
任意保険に加入していれば、自賠責保険で補えない部分も保険会社が支払ってくれますから、問題は生じません。
問題は、加害者が任意保険に加入していない場合です。この場合、支払う先が、被害者本人か、それとも、被害者に代わりに支払った保険会社かはともあれ、自賠責保険で補えない損害については、加害者本人が支払うことになります。
相手を死なせてしまった場合はもちろん、高収入の相手を長期入院させてしまった場合、重い後遺症を生じさせてしまった場合、高級車を修理不可能にさせてしまった場合などには、1,000万円以上の支払が必要になる恐れがあります。
では、この支払負担は、個人再生手続で軽減できるのでしょうか。
3.交通事故の損害賠償金と個人再生
交通事故の損害賠償金を含む不法行為に基づく損害賠償請求権は、全て個人再生手続の対象にはなります。
ところが、一部の不法行為に基づく損害賠償請求権は、非減免債権といって、支払負担の金額については一切減額されない場合があります。
そのため、交通事故の損害賠償金の内容が、非減免債権とされるような不法行為に基づく損害賠償請求権に該当してしまうと、下記のように、再生手続によっても減額をしてもらえなくなるのです。
(1) 非減免債権の支払方法
非減免債権も、手続の対象にはなりますので、再生計画に盛り込まれ、再生計画認可決定がされると、一部のみを分割返済することになります。
しかし、通常の借金など支払負担は、再生計画に基づく返済を終えると残額が免除されるのに対して、非減免債権は、再生計画に基づく返済終了時に、残額を一括で支払わなければなりません。
つまり、非減免債権を個人再生手続の対象とすると、本来なら手続前に一括で全額支払うべきところを、一部については、再生計画に基づき3年か5年で少しずつ返済し、計画終了後、残額を一括返済するというふうに、支払負担を軽減・先延ばしするだけで、免除は全くされないのです。
(2) 交通事故の損害賠償金が問題となる非減免債権
非減免債権の中でも、交通事故の損害賞金が該当しうるのは、以下の二つです。
①悪意で害を加えた場合の損害賠償請求権
「悪意」とは、積極的に相手に害を加えた場合など、悪質な認識がある場合をいいます。生命や身体に限らず、財産などへの損害も対象です。
交通事故で言えば、相手に損害を与えるために、わざと自動車で突っ込んだ場合が該当します。
刑罰としては、もはや、事故というよりは、純粋な傷害や殺人、器物損壊とされるでしょう。
②故意または重過失により人の生命又は身体を害した場合の損害賠償請求権
「故意」とは、自分の行動の結果、損害が生じると分かってやったということを意味し、「重過失」とは、ほんの少し注意を払っていれば、損害発生を防げたのに、ひどい不注意をしたことを意味します。こちらの場合、財産などへの損害は、非減免債権とはなりません。
また、①、②通じて言えることは、軽過失、つまり、ちょっとした不注意により生じた損害賠償請求権は、一切非減免債権とはならないということです。
交通事故で言えば、悪質な運転による人身事故についての損害賠償請求権が、非減免債権となります。
悪質な運転の具体例としては、飲酒運転や重大なスピード違反、煽り運転などが考えられるでしょう。
もっとも、具体的に重過失と軽過失の間に線を引くことは不可能です。争いとなった場合には、個人再生手続とは別に、裁判をせざるを得ない恐れもあります。
4.交通事故の損害賠償金への対処法
(1) 普段からの心がけ
自賠責保険はもちろん、任意保険もできる限り加入しておくことは不可欠です。
そして、非減免債権とされずに済む条件のうち、自分でコントロールできることは、重過失に当たるような不用意な運転をしないように心がけることしかありません。
(2) 交通事故の加害者になってしまったら
相手をケガさせてしまった場合には、重過失か、軽過失かで非減免債権となるか否かが異なります。
先ほど触れた通り、個人再生手続で重過失によるものとされても、あとから裁判で軽過失にすぎなかったと争うことも可能です。
一方、非免責債権とされてしまった場合には、再生計画に基づく返済終了後の残額一括返済に備え、積立金を用意しましょう。
できれば、相手方に対して、それまでの計画スケジュールと同じとまでいかずとも、分割返済にすることができないか、弁護士を活用して交渉しましょう。
5.交通事故の損害賠償金支払いで困ったら弁護士に相談を
保険への加入や日頃の安全運転は言わずもがなです。しかし、不幸にも交通事故を起こしてしまい、突然、莫大な損害賠償金を支払うことになってしまった場合には、裁判所を用いた債務整理である個人再生手続は一つの手段です。
ただし、交通事故の損害賠償金は、個人再生手続で減額をしてもらえない恐れがあります。
実は、自己破産手続でも同様の規定があり、破産しても支払負担が全く減らないことになっています。
個人再生手続を用いるべきかどうか、用いたとしてどれだけの効果が見込めるのかといった見通しは、弁護士でなければ立てることが困難です。
泉総合法律事務所では、個人再生手続の経験が豊富な弁護士が多数在籍しております。交通事故の損害賠償金の支払にお困りの皆様のご相談をお待ちしております。
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