債務整理

損害賠償金は自己破産で無くならない?「非免責債権」など

自己破産をしても免除されない借金があるって本当?

自己破産手続は、支払い切れなくなってしまった借金を、財産を債権者に配当する代わりに、裁判所に免除してもらえる債務整理手続です。

自己破産により借金が免除されることは「免責」、裁判所が免責を決定することを「免責許可決定」と言います。

原則として、返済が不可能な方が裁判所に申立てをすれば、ほとんどの場合、裁判所が免責許可決定をすることで、借金の全てを全額免除してもらえます

しかし、自己破産手続の申立てが認められたとしても、必ずしも借金を全て免除してもらえるとは限らないのです。

1.悪質な賠償金などは「免責」の対象にならない

借金の中には、一応手続の対象にはなるけれども、免責許可決定がされても支払負担が免除されないものがあります。その結果、自己破産が成功した後でも支払い負担がまるごと残る借金を「非免責債権」と呼びます。

自己破産手続の対象となった借金は、他の債権者との関係上、取り立ても支払いも禁止されます。債権者を公平に扱わなければならない「債権者平等の原則」があるためです。しかし、自己破産が成功しても、手続後に全額を支払わなければならないのです。

非免責債権となる借金や支払い義務はいくつかありますが、主に問題となるのは以下の4つでしょう。

(1) 悪質・重大な損害賠償金

損害賠償金を支払う責任は、原則として免除されます。
ただし、冒頭で説明したような、悪質な行為によるもの・重大な損害を与えたものは、非免責債権となってしまいます。

積極的に相手に損害を与えるつもりだった場合

たとえば、犯罪行為が原因の損害賠償金は、非免責債権になります。バイト先での悪ふざけをネットに投稿すれば、業務妨害の罪に問われることもありますから、非免責債権になるおそれがあるでしょう。

他に身近なところでは、DVがあった場合の離婚の慰謝料請求権などもこれに当たる可能性があります。離婚の原因が浮気だけのときは、基本的に非免責債権にはならないでしょう。

そうなると分かって、またはひどい不注意で、相手の生命・身体に損害を与えた場合

たとえば、飲酒運転で死亡・傷害事故を起こした場合の治療費や慰謝料の請求権などです。

ちなみに、この場合、相手の壊れた自動車の修理費用などは非免責債権にならないので自己破産をすれば支払う必要は無くなります。生命や身体に対する損害ではないからです。

(2) 裁判所に申告しなかった借金

申立てのときには「債権者一覧表」という名簿に債権者全員を記載して提出し、裁判所に債権者を申告します。
この債権者一覧表に記載忘れをしてしまった場合、その債権者への借金が非免責債権となるおそれがあります。

誰かの借金を保証していたけど忘れていた、というケースが多いため、ご注意ください。
わざと債権者を隠すと、そもそも免責そのものが許されなくなる可能性が生じる「免責不許可事由」に該当します。

免責不許可事由についての詳細は最後に説明しましょう。

(3) 滞納している養育費や婚姻費用の請求権

手続が始まる前に支払うべきであったのに、支払っていなかった養育費や婚姻費用は、自己破産によっても免除されることはありません。

(4) 滞納している税金など

税金や年金、健康保険料などの公租公課は、いつから滞納しているのか次第で扱いが異なるのですが、結論から言えば、自己破産手続で免責されることはありません。

しかも、多くの場合は単に免責されないだけでなく、そもそも「自己破産手続の対象にならない」のです。

2.手続中でも支払わなければならない借金

自己破産手続の対象にならない借金は、免責許可決定がされても免除されないだけでなく、自己破産手続中ですら、債権者から請求されれば支払わなければなりません。

(1) 税金など

さきほどの続きになりますが、手続開始後に支払うことになっている税金や、滞納してからまだ日が浅い税金は手続の対象になりません。
特に、滞納している税金を回収するために役所が滞納処分による差し押さえをした場合、手続が始まっても差し押さえを止められません。

他の借金による差し押さえとは異なります。あらかじめ、分納手続きをしておきましょう。

なお、手続開始後は滞納処分によるものであっても新しく差し押さえをすることはできなくなりますから、申立てを急いでください。

(2) 下水道料金や直近1か月の滞納している水道光熱費

手続が始まる前の滞納している水道光熱費については、ほとんどについては免責の対象となります。

しかし、下水道料金は法律上税金と同じように扱われているため、免責の対象となりません。
また、申立て前の直近1か月前については、下水道料金以外の水道光熱費も免責されないことにご注意ください。

(3) 手続開始後に支払うことになっているもの

自己破産手続の対象になるかどうかの「時間の区切り」は、「手続開始の前か後か」です。手続開始後に支払い日が来るものは手続の対象になりません。

滞納していない水道光熱費、家賃、通信費なども手続の対象にはなりません。そのため、自己破産手続が開始された後に支払うべき家賃や、水道光熱費、スマホの通信料を支払わなければ、それらの契約を解約されたり、インフラサービスの提供を止められたりしてしまいます。

また、自己破産手続が開始された後に支払うべき養育費の支払もしなければなりません。

さらに、マンション管理費用も、場合によっては免責されないものが生じる可能性があります。

【借金に担保があれば、担保の売却代金分は免除されない】
債務者の財産を担保としている借金も手続の対象になりますが、その債権者は、自己破産手続中であっても、担保となっている財産を処分して、借金を回収することができます。財産の処分代金から回収されてしまった金額については、自己破産手続により免除されたとは言えなくなる訳です。
なお、財産の処分代金で回収しきれなかった分については原則通り免除されます。

3.免責不許可事由があると一切免除されないおそれ

ここまでは、個別の借金が免除されるかどうかを説明してきました。それに対して、最後に説明する「免責不許可事由は、そもそも免責されるか、あらゆる借金について免除されるかどうかの問題です。

具体的には、以下のようなものが免責不許可事由となります。

  • 財産隠しや廉価売却、譲渡
  • 闇金からの借金やクレジットカードのショッピング枠の現金化
  • 特定の債権者への優先的な返済
  • 浪費やギャンブル
  • 申立ての1年前までの間に、債権者を積極的にだまして、支払不能状態でないと思わせて借金をした
  • 財産に関する書類の破棄・改ざん
  • 債権者の虚偽申告
  • 裁判所への説明拒否や虚偽説明
  • 破産管財人の業務妨害
  • 以前自己破産などをしたことがあり7年経過していない
  • 破産管財人への説明義務、重要財産開示義務及び免責不許可事由の調査への協力義務など、破産法上の義務に反したこと

実際には、免責不許可事由があっても、裁判所が債務者の事情を総合的に考慮して免責を認める「裁量免責制度」があるため、ほとんどの場合は免責がされています。

とはいえ、必ず裁量免責がされる訳ではありません。債権者に損害を与えるとわかっていながら債務者自身の利益を図る不適切な行為をしたうえ、手続の中でもウソを塗り重ねて裁判所などに協力をせず、反省の色がまるで見えないなど、あまりにも悪質と言える場合には免責されないことがあります。

4.まとめ

自己破産手続を申立てさえすれば、必ず、全ての借金がなくなるとは限りません。

もっとも、実際には、借金が一切免除されないことにはめったにありませんし、また、離婚や交通事故を起こしていたなどの特殊事情が無い限り、不法行為に基づく損害賠償請求権が問題となることはないでしょう。

ただし、税金や水道光熱費など、身近で生活に不可欠の出費の中には、免除されないものがあり、十分注意する必要があります。

特に、下水道使用料が、法律上税金と同じように扱われているように、予想もしないものが税金と同様の扱いを受け、免除されない恐れがあります。
たとえば、公立の保育園料も税金と同じようなものとして免除の対象となっていないのです。

自己破産手続をして一安心と思っていたら、思わぬ借金がまだ残っていたために、生活の再建に失敗してしまったということにならないためにも、弁護士にしっかりと相談しましょう。

泉総合法律事務所では、これまで多数の借金問題を自己破産手続で解決してきた豊富な実績があります。是非、お気軽にお問い合わせ下さい

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